プチ小説「青春の光81」

「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「いいや、わしは相変わらず、人生を謳歌しとるから、心配せんでいいよ。それにしても、船場君は本が売れないものだから、落ちコンドルんじゃないかな」
「橋本さん、それは言い過ぎです。コンドル(禿鷹)だなんて、船場さんが傷つくじゃないですか」
「いいや、わしは他意はないんじゃ。60才を機にスキンヘッドにしても...。なんでそんな話になるのかな。まあいずれにせよ船場君には高級な鬘を買うお金がないんだから、少なくなりすぎて白くなった髪の毛をやりくりするしかないんじゃないかな。船場君のことだから、『こんにちは、ディケンズ先生』のことをあまり考えなくなったので、他のことに禿んでいるんじゃないか」
「それを言うなら、励むでしょう。確かに船場さんは暑い日に物事に集中すると頭髪が汗まみれになってボリュウム感がなくなりますが...」
「話は変わるが、最近まで、船場君はグルメリポートをしていたが、なんであんなことをしたのかな」
「以前から、自分の食生活のことを書きたかったようですよ」
「毎週末に有名店に行って、楽しかっただろうな。昼ごはんでピザを3000円以上食べて、夕方に湯豆腐を食べたりするんだから。船場君はジョギングもやっていないし、そのうちに90キロをオーヴァーするんじゃないのかな」
「船場さんは、食べ過ぎたのを反省して、しばらくはグルメリポートを休止すると言われています。でもそれでひとつのヒントを得たようですよ」
「ほう、それはなにかな」
「レストランや居酒屋などで料理を撮っているうちに身近な被写体を面白おかしく撮ることに興味を持たれたようです」
「そう言えば、船場君は、風景写真ばかり撮っていたからなあ。槍・穂高や京都のお寺の写真なんかをライカで撮っていたなあ」
「そうです。もちろんそれも続けますが、デジカメやオリンパスOM1とマクロレンズで身近なものや植物を撮ろうと考えておられるようですよ」
「植物を撮るのは大変だよ。ぐっと近づくためには腹這いにならないといけないこともあるし、風がある日はゆらゆら揺れて、ピントも合わせにくい。根気のない船場君には難しいと思うんだが」
「思い立ったが吉日ということで、船場さんは昨日、愛用しているクラリネットや円山公園の桜をオリンパスOM1に接写(マクロ)レンズを付けて撮影されたようです。船場さんは上手く写せたので、また撮りたいと言われていました」
「次はどこに行くのかな」
「時間が取れれば、造幣局の桜を撮りたいと、またゴールデンウィークには京都の植物園で腹這いになって可憐なかわいい花を撮りたいと言われていました。船場さんは、写真は人を介さないですぐに優劣がわかるから自分に向いているのかなと言われていました」
「船場君は、ゴールデンウィークに久しぶりに比良山に登ると言っていたが、お腹が出てきたので、脚も上がらないんじゃないか」
「せいぜい腿上げをして、へばらないようにすると言われていました。登山用のジーンズを久しぶりに買われたようです」
「まあ、今の体形では槍・穂高はとても無理だろうが、船場君が撮る高山植物のクローズアップ写真も見たい気がする」
「そうですね、それまで京都植物園通いをして、腕を上げておいてほしいですね」