プチ小説「たこちゃんの肖像」
ポートレイト リトラート ビルトニスというのは肖像のことだけど、ぼくは仕事で知り合った方に肖像画を書いてもらったことがあるんだ。たくさんの人の肖像画を描かれた方なので、ぼくの特徴をよく捉えられていて、お気に入りの絵なんだけど、有名にならないことには見たいという🙍は現れないだろうから、このまま脚光を浴びることなく終わってしまうような気がするんだ。もともとぼくには画才がないので人物画や風景画を描くことはなかったけど、その代わりに、風景写真はたくさん撮って来た。高校時代にオリンパスOM1を、40才の頃にライカM6を、50才の頃にニコンD90を購入したが、今でもどのカメラも現役で活躍してくれている。OM1の色合いはライカに比べると見劣りはするが、マクロレンズは活用している。長年使い込んだカメラなので、ピントが合わせやすく、それがマクロレンズでの撮影に役立っているようだ。ライカはその色合いに惚れ込んで、エルマリート21mm、ズミクロン35mm、エルマー50mm(沈胴式)、ズミクロン50mm、エルマー90mm(沈胴式)のレンズを買って、京都のお寺や槍・穂高の写真をたくさん撮った。このレンズで撮った、京都のお寺の苔や北アルプスに自生するハイマツの写真を見るとまた京都や北アルプスに出掛けたくなる。ニコンのD90はあまり使っていないけど、気軽に高画質の撮影ができるというのが魅力で、今から10年前に槍ヶ岳に登った際に高画質で槍ヶ岳の山頂を撮ったり、1分程で消失してしまったブロッケン現象を無事写真に残すことができたのだった。そういうことでこの3台のカメラは今でも重宝しているが、今度、奮発して、ライカのM9を購入したんだ。現行機種はM10となるが、愛用しているM6と外観がほとんど同じなのでやはりM9の方にぼくは魅力を感じるんだ。それに使いやすさ、写真の質の高さはM6と同じだし、何といっても今まで購入したMマウントのレンズが使えるというのも魅力なんだ。今まで通り、風景写真を撮るつもりだが、同意を得て肖像写真を撮らせていただき、ホームページにポートレイトのページなんかができればいいなと思っている。駅前で客待ちをしているスキンヘッドのタクシー運転手は室内でもストロボがいらないような光を放っているが、写真を撮ることがあるんだろうか。そこにいるから訊いてみよう。「こんにちは」「オウ ブエノスディアス エストイ フォトジェニコ」「そうなんですか。それじゃあ、一度撮らせてください」「わかった。そしたら1時間で10万円に負けといたるわ」「えーっ、お金を取るんですか」「そら、わしみたいなモデルやったら、引く手数多やから、タダ働きはせえへんのとちゃう」「どういうところがウリなんですか」「そらなんといっても、モアイ像のような彫の深い顔やな」「他にありますか」「パンダの赤ちゃんのような愛くるしい振る舞いやな」「それから...」「晴天の日には100メートル離れていても識別できる輝かしい頭部かな。これは船場はんにも共通していることやけど」「いえいえ、いえいえい、まだまだ鼻田さんの足元にも及びません」「ところで話は変わるけど、出版の話はどないなっとるの」「今のところ、10月には、『こんにちは、ディケンズ先生2 改訂版』を出版する予定で、もうすぐ校正に入ります。3巻と4巻は来年3月初めに出版したいと思っています。今、原稿を幻冬舎ルネッサンス新社の方に読んでいただいているところです」「そしたら、4巻で完結ちゅーことやな」「それは読者の方の選択に委ねられています。書きたいことはほぼ書いてしまいましたが、小川、秋子、大川、アユミ、相川などのキャラクターをお蔵に入れてしまうのは惜しいと思っているので、彼らの活躍の場を与えられれば、いくらでもぼくは物語を続けます。ただそのためには出版費用が必要なんです」「そうか東京にお出かけと言ってもいつも同じポロシャツとズボンで出掛ける船場はんやから、出版費用を捻出でけんというのは理解できるわ。まあ奇跡が起きるのを祈るんやな」「鼻田さんの言われる通りです。それまでは鼻田さんの境地に一歩でも近づけるように頑張ります」「よーし、船場はんがそない言うのやったら、今からうさぎ跳びとリヤカーごっこをするでぇぇぇぇぇえ」そう言って鼻田さんは自分のタクシーの周りをうさぎ跳びで回り始めたので、ぼくも後に続いたのだった。