プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 可憐な花を愛でるのは向いてない編

わしがちいこい頃に目にした花で今でも印象に残っているのは、盛夏に見たセイタカアワダチソウと春に隣の家の庭に咲いていたヤマブキやった。他には黄色のカンナやヒマワリちゅーように、ちいこい頃のわしの視界には黄色い花がよう入って来て、それが一番印象に残っとるんや。両親が花を育てるのに熱心でチューリップやアジサイやサツキの盆栽なんかを育ててたけど、際立った花やなかったんで花に興味を持つことはなかった。それでもバラの花を見に京都府立植物園に行ったり、ウメの花を見に北野天満宮に行ったり、サクラの花を見に造幣局へ行ったもんやった。そやけどこれらの花はなー、花の咲いているのを見たり、見に行ったちゅーだけで、自分で育てたり、自分で小鉢を買うたりしたんやないんで、愛でたり、愛着を持つちゅーもんやなかった。小学生の頃にアサガオを育てたり、ホウセンカの種がポンとはじける音を聞いてみたいと思っとったら、植物にもっと興味を持っていたかもしれんが、サルビアの花の蜜をちゅーちゅー吸ったり、オジギソウを触って喜ぶくらいしかせーへんかったから、未だに花を種や球根から育てたことがない。母親が雨の日以外は毎日水をやっとるちゅーのを聞くとわしにはとてもでけんなぁと思うんやが、もう少し年取って行動範囲が狭くなったら、家におることが多くなるやろから、花を大切に育てることもできるようになるかもしれん。船場もわしと同じで無粋で花を愛でる暇もないような気がするんやが、ホンマのところはどうなんか、訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、にいさん、花を愛でることですね。私もにいさんと同じで種や球根から植物を育てたことはありません。でも小鉢を購入したことはあります。ほう、そうなんか、そらいつや。今から20年程前に宇賀渓で買ったんです。宇賀渓ちゅーたら、あの三重の山奥、鈴鹿山系のか。ええ、私は三岐鉄道大安駅から平日しか運転していないバスで行って来ました。時間にゆとりがなかったので余りうろうろした記憶はないのですが、道端でオサムシやハンミョウを見たのを覚えています。これといった収穫がなく土産物屋を覗いてみたら、店先にその小鉢が置いてあったのです。にいさん何だと思いますか。カタクリとかか。いいえ、カタクリは春の花で、私が行ったのは7月だったので、サギソウの鉢がいくつか並んでいたのです。今までに鉢植えを買いたいと思ったことは一度としてなかったのですが、その時は小さな小鉢に可憐な花が植えられているのを見て、購買意欲をそそられ、後先のことを考えずに購入したのです。無事に花を傷つけることなく家に持って帰ったのですが、1週間もしないうちに花びらが萎れて茶色っぽくなって来たので花を摘みました。球根からまた来年花を咲かせることもできるようでしたが、ミズゴケが必要なので栽培を断念しました。そうか、お前に買われたために精一杯花を開かすことができなんだちゅーわけやな。その通りです。私が買ったサギソウさんは、もっと何年も花を開かせたかったんやと思います。ですが...。そうか、船場はそんなことがあったから、鉢植えをよう買わんちゅーわけやな。そうですね、毎日水をやることは難しいですから。船場が何事においても熱中でけんちゅーんのもこんなところに現れとるんかもしれんな。ほっといてください。