プチ小説「お盆に考えること」

ぼくが小学校低学年の頃のことなのではっきり覚えていないが、
お盆に親戚が集まり夕ご飯に御馳走を食べた後、子供だけで近くの川に
精霊流しに行ったことを覚えている。
線香に火を点けて果物やお菓子と一緒に何かに乗っけて川に流した
という記憶があるが、どのようにして流したのかは覚えていない。
行き帰りにどの道を通って行ったかは覚えているが、
他のことは曖昧模糊としている。
親戚の家は今は無くなり、その時のことを尋ねる人もいなくなった。
ただ川に行く時に通った道は今でもたまに通る。その時は
一瞬その幼少の時のことを思い出すが、詳細に思い出すことはなく、
情景が長く浮かび続けることはなく、はかなく消えてしまう。

父親が逝ってから、2年3ヶ月余りになる。肉親の死というものを
50代後半になるまで知らなかったというのは、幸せだったと思う。
それは祖父母の死とはまったくちがったものだから。
喪主として法事に臨み、詳細なことまで指導を受けた。
曖昧模糊なところは少しもない。
幼い頃の記憶と違って、死後の父親が辿った道を歩くと
父親のことを鮮明に思い出すことだろう。