プチ小説「青春の光84」
「は、橋本さん、どうかされたんですか」
「いやあ、田中君、最近、船場君が写真を撮ってばかりで、小説を書かないから、発破をかけようかと思ってね」
「そう言えば。船場さん、超ビジュアル小説と称して、月や夜景の写真をホームページに載せていますね」
「ライカのM9を手に入れてから、時間を見つけては屋外撮影をしている」
「そうですね。十津川村の谷瀬の吊り橋を撮ったと思ったら、茨木辯天や淀川の花火大会を撮ったり、最近では神戸の掬星台で夜景を撮ったりしています」
「おまけに銀河の写真を撮ろうとケンコースカイメモを購入したようだ」
「それはなんなんですか」
「地球は自転している。だから暗い空に浮かび上がる微光の銀河を追尾して撮影するためには、赤道儀が必要なんだ。スカイメモは簡易赤道儀のことだ」
「天文写真初心者で大雑把な船場さんがガイド撮影なんかできるんでしょうか」
「8月に船場君が訪れた奈良県の山奥にある星のくに(大塔コズミックパーク)に東元さんというガイド撮影の熟練者がおられて、指導を受けながらガイド撮影をすることになっている。予定では、来年の8月か9月に船場君は星のくにに行くようだ。ただ大きな問題がひとつある」
「何でしょうか」
「機材の運搬のことだ。撮影にはM9の他、三脚、レリーズ、スカイメモ、その付属品を持っていかなければならない。船場君はペーパードライバーだから、現地に乗り込むのは、公共交通機関だ。カメラやレンズは鞄にまとめて入れるとして、三脚も大きいがケースがあるから何とか持てる。問題はスカイメモと付属品だ」
「ケースがないんですか」
「ケースはあるんだが、プラスチック製のかたおもい、これは固くて重いという意味だが、ケースで運搬しなければならない。ケースの中に入っているのは、スカイメモの他、微動雲台、微動台座、バランスウエイトなどで、全部で7キロ近くになる。これを船場君の自宅から星のくにまで運ばなければならない」
「それは大変ですね。でも赤道儀がなければ、銀河を撮影できないから腹を決めないと仕方ないですね」
「船場君は、花火、夜景、天体写真の撮影を余生の楽しみにするようだ」
「そんなー、本の出版もやる気満々なんでしょ」
「そ、そうだったな。でも最近は本が売れない時代だし、船場君も売れない時のことを考えておかないと」
「まだ出ていないうちから、そんな弱気なことを言ったら駄目ですよ。橋本さんは金粉やメリケン粉を全身に塗って、捨て身の宣伝活動をしていたんではなかったんですか」
「私が悪かった」
「そう言いながら、金粉を塗り始める橋本さんをぼくは信頼しています」
「よーし、準備ができたぞ。船場弘章著『こんにちは、ディケンズ先生2』改訂版は11月29日に幻冬舎ルネッサンス新社から発売されます。来年の3月には、第3巻と第4巻が同時発売されますので、どうぞよろしくお願いします」
「そうそう、その意気です」