プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 アルトはポール・デズモントが一番編」

わしがちいこい頃は、漫才を見るのが土曜日の昼の楽しみで、自宅で昼ご飯を食べた後でお笑いネットワークちゅー番組を見るためによみうりテレビにチャンネルを合わせたもんやった。いとし・こいし、ダイマル・ラケット、幸朗・幸子、はんじ・けんじ、柳次・柳太の漫才を見て、ハンカチで涙を拭きながら大爆笑したもんやった。そやけど飽きっぽいわしのことやから、1年もせんうちに他のおもろい漫才がないかいなと思っとるうちに、東京の漫才を見るようになった。それでも上方漫才の方がストーリーが身近なんでおもろいと思うとった。そやけど東京の漫才師の中でも別格のコンビがおった。それは獅子てんや・瀬戸わんやなんやが、何ちゅーても、わんやのリアクションやぴーよこちゃんがおもしろうて、畳を涙で腐らせるくらい笑ろうたもんやった。こらおおげさやったな、すんまへん。
そんな明るい少年時代を過ごしとったわしなんやが、大学に入って、ディケンズの『ピクウィック・クラブ』の挿絵を見た時には、久しぶりにわんや師匠に会った(見た)ような気になって、静かな図書館の中やのに、あ、ぴーよこちゃんやと思わず言ってしもうたんやった。ぴーよこちゃんに似たその小説の主人公に親近感を持ったわしはそれまでに読んだことがなかったハードカバーの小説を一気に(ちゅーても1か月以上かかったんやが)読み終えたんやった。
それからわしが社会人になって5年ほどして、ジャズに興味を持ったんやが、わしは最初はブルーノートの名盤ばっかり聴いとった。ある時製薬会社のコマーシャルでテイク・ファイヴが流れて調べたら、この曲がジャズの名曲やちゅーのを知ったんやった。ほんで早速レコードを聴いたんやが、メンバーの中におった黒縁メガネの人を見てわしは思わず、あ、ぴーよこちゃんやちゅーたんやった。そのアルトサックス奏者はポール・デズモントやったんやが、親近感を持ったわしはデズモントのリーダーアルバムをようけ買うたもんやった。
それから船場との付き合いも長いけど、最近あいつもすっかり頭髪もなくなり、たまに縁のあるメガネをかけるようになりよった。ほんで船場に、あんた最近ぴーよこちゃんに似てきたなあちゅーたったら、船場は複雑な表情しとった。ディケンズの小説の登場人物にも似とるんやから、わしは名誉なことやと思うんやが、あいつどう思っとるんか訊いてみたろ。おーい、船場ーっおるかー。
はいはい、ぴーよこちゃんのことですか。そうやないがな、わしが気いつこうて、ピクウィック氏のことを話題にしたんやから、あんたは『こんにちは、ディケンズ先生』の新刊のことを話さなあかん。わかりました。11月29日に『こんにちは、ディケンズ先生2』改訂版が出版されることになっています。さらに来年の3月4日には、『こんにちは、ディケンズ先生』の第3巻と第4巻を同日に発刊する予定です。少しだけ内容について話すと小川の夢の中にぴーよこちゃんじゃなかった。ピクウィック氏が登場することになっています。ほんならついでにテイク・ファイヴのことも言っといたらええんとちゃう。そうですね。来年2月9日に発表会があり、ポール・デズモントが作曲したテイク・ファイヴを演奏します。蹴上の京都国際交流会館のイベントホールで開催しますので、お時間がありましたらお越しください。ぴーよこちゃんをこれからもよろしく。