プチ小説「長崎は今日は晴れでした」(超ビジュアル小説)

空田は、夜景を撮影するために長崎に来ていた。空田には大きな声で独り言を言うという悪い癖があった。
「新幹線の車内で柿の葉ずしを食べただけなのでお腹がぺこぺこだ。そういうわけで四海楼に来たんだ。30分待ちということだったけど、10分で席に着けてよかった。長崎にはチャンポンの名店がたくさんあり他のところにも行きたいから、再びこの店に来ることはないと思う。だもんで今日はここのチャンポンと皿うどんを両方注文しよう。うまい具合に蓋つき容器入りチャンポンが、少し安くて量が少なめだった。夜行バスで帰るまでにチャンポンをもう一杯食べたいところだ。この後は大浦天主堂に行ってみようかな。さっきタクシーの運転手さんと話していて気付いたけど、グラーバー園近くにあるのが大浦天主堂で、平和公園の近くにあるのが浦上天主堂なんだ。大浦天主堂は国宝の古い建物なんだけど、浦上天主堂は1959年に再建されたようだ」



空田は浦上天主堂を出るとグラバー園に向かった。高校の頃に家族旅行で来たことがあり、そこからの長崎市街の景色が印象に残っていたからだった。
「でも長崎って、長崎湾と浦上川があるから景色がいいんだな。夜景なんか、水面に人工灯が反映してより味わい深い景色が出現する。さっき運転手さんが稲佐山の頂上が333メートルで東京タワーと同じと言っていた。神戸の掬星台は700メートル位だから、大阪湾まで伸びる夜景をちょっと奥まったところで見るという感じだが、長崎はすぐ目の前に夜景が広がっているという感じだな。日本三大夜景は神戸、長崎それと函館と言うけど、函館山の標高は334メートルだから、長崎のような感じの夜景なんだろうな。そうだ、それから長崎の人は世界の三大夜景が長崎、香港、モナコと言われているようだけど、神戸と函館を入れて世界の五大夜景ということにした方がいいとは思わなかったんだろうか」
空田が時計を見ると午後4時を過ぎていた。グラバー園から見ると、対岸にある稲佐山がとても遠くに見えた。
「バスを乗り継いで行くのは難しいだろう。タクシーを拾うことにしよう。でもそこからロープウェイに乗らないといけないから、余裕をもっていかないと午後8時30分の夜行バスに乗られなくなるかもしれない」
空田が思うほど稲佐山の展望台に行くまで時間はかからず、まだ少し明るい午後5時過ぎに展望台から手持ち撮影で何枚か写真を撮ることができた。



空田は空にオレンジ色が残っている間は展望台のあちこちで、写真を撮った。
「さっき、女神大橋のずっと向こうに軍艦島があるって言っていたけど、見えないなあ。これだけ見通しが良くっても見えないんだから、ここからは軍艦島は見えないんじゃないかしら」



人の肩越しや頭越しに市街の夜景を撮るわけに行かないので、空田は手すりの際に三脚を立てることができるスペースが空くのを根気強く待った。それでもそれぞれ約20分待って2枚写真を撮ったところで、満足したこともあり、引き上げることにした。
「大体、女神大橋から平和公園のあたりまでが夜景のきれいなところだろう。旭大橋を中心にして何枚か撮れば、十分満足する。あとは90mmの望遠レンズで、何枚か撮ったが...。腹が減ったなぁ。夜行バスに乗る前にチャンポンも食べたいが、その前にわわわわー、わわわわーのCDをここで買わないといけない」
空田はうまい具合に稲佐山展望台の駐車場でタクシーを捕まえることができ、余裕をもって長崎駅の駅ビルを逍遥することができた。内山田洋とクール・ファイブの「長崎は今日も雨だった」と「会わずに愛して」が好きな空田はメトロ書店で彼らのベストアルバムを購入すると、ほっと胸を撫で下ろした。空田はこうして今回の長崎訪問の目的をすべて果たし、チャンポンを食した後、心地よい疲労感をもって夜行バスで長崎を後にした。