プチ小説「たこちゃんの映画」

ムービー シネ キノ というのは映画のことだけど、ぼくは中学生の頃から映画が好きで、よく観たものだった。もちろんテレビで観ることがほとんどだったけど、「燃えよドラゴン」「パピヨン」「007黄金銃を持つ男」「ダーティーハリー2」なんかはロードショウで観た。2本立て、3本立てを客席200くらいの映画館で観ることもあった。胸をワクワクさせるいわゆるアクション映画が大好きで、「荒野の七人」、クリント・イーストウッド(「荒野の用心棒」など)やジュリアーノ・ジェンマ(「荒野の一ドル銀貨」など)主演の西部劇は何度も観た。「大脱走」やいくつかのジェイムズ・ボンドもの(007シリーズのことだが)も食い入るように観ていた。最近のものでは、「ストリート・オブ・ファイヤー」は何度も観て、ついにDVDも買ってしまった。その一方で、感動でぽろぽろ涙を流す映画も好きで、「旅情」「汚れなき悪戯」「チップス先生さようなら」は何度見ても涙が止まらなかった。高校生になった頃から、映画音楽に興味を持ち出し(書店に勤めていた母親が買ってきた、ジーンズ版 世界の映画音楽全16巻のお陰だが)、「グレンミラー物語」「ベニー・グッドマン物語」「愛情物語」「五つの銅貨」「オズの魔法使」「卒業」「黒いオルフェ」「サウンド・オブ・ミュージック」「第三の男」「クリスマス・キャロル」なんかを興味を持って観た。年末年始に8連休があるということで、この頃に興味を持った映画で、見られなかったり、もう一度見てみたい映画をDVDで観てみようと思い立って、通販で購入した。「ライムライト」「汚れなき悪戯」「追憶」「男と女」「卒業」「シェルブールの雨傘」「ダーティハリー」「天国から来たチャンピオン」「未知との遭遇」「男の出発」「翼よ!あれが巴里の灯だ」を購入したが、全部見るまでには、数か月はかかることだろう。ぼくが若い頃には、テレビで1950~70年代の映画をばんばん放映していた。NHK教育テレビも日曜日の午後9時から、白黒映画の名作を放映していた。今は地上波でその頃の作品を見られることがほとんどなくなりさみしい限りだ。BSなど別料金の契約が必要になったり、DVDを購入しなければならなくなった。映画は玉石混交で大量の選択肢があるのも困るが、ほとんど放送がないというのではどうしようもない。テレビ局の英断を望むばかりだ。駅前で客待ちをしているスキンヘッドのタクシー運転手は以前、日本映画をよく観ると言っていたが、どんなものを観るんだろうか。そこにいるから訊いてみよう。「こんにちは」「オウ ブエノスディアス アダプタロン エスタ ノベラ アル シネ」「そうですね、ディケンズの『クリスマス・キャロル』は1971年に公開されたミュージカル映画になりました。ところで、👃田さんが好きな日本映画は何ですか」「たくさんあるんで、何やと訊かれると困るんやが、やっぱり「七人の侍」なんかは好きやな」「日本版のアクション映画ですね」「そうやなあ、わしは映画はエンターテインメントと考えとるから、チャンバラ映画は大好きや」「他にはどんなのが好きですか」「そら、アニメ映画や怪獣映画やろな。「母を訪ねて三千里」のマルコが医者になって、アルゼンチンに行くちゅー映画をロードショウで観たなあ」「文芸作品なんかはどうですか」「そうやなぁー、文芸作品はあんまり読まんからなぁー」「じゃあ、映画監督ではどの人が...」「小津安二郎、黒沢明、宮崎駿なんやが、スポーツ紙を見ている方が楽しいから」「ということはあんまり観られないということですか」「そうやなぁー、わしはDVDプレーヤー持っとらんから、ええんとちゃう」「それでは、仕方ないですね」「船場はんも、あんまり映画にのめり込まんようにしーや。『こんにちは、ディケンズ先生』の第3巻と第4巻が3月4日に出るんやろ。しっかりと校正せんとあかんから、基礎体力が必要や。うさぎとびとリヤカーごっこを今からするでぇーー」「わかりました。よろしくおねがいします」そう言って、鼻田さんがうさぎとびで自分のタクシーの周りを回り始めたので、ぼくもそれに続いたのだった。