プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 昔の映画は青春と共にあった編」

わしがちいこい頃に初めて観た映画は、「わんわん忠臣蔵」やったと記憶してる。その後、観たのは、ウルトラマンやウルトラセブンが流行っていたこともあって、「ガメラ対ギャオス」「ガメラ対ギロン」「ガメラ対ジグラ」やったと記憶しとる。子供の頃は、春休みに大映の新作怪獣映画を観るのが、大きな楽しみのひとつやった。わしは単純やから、ガメラ(正義)、ギャオス(悪)という正義の味方が、悪い怪獣をやっつけるちゅーのが図式的にも分かりやすくてとっつきやすかったんやが、ゴジラが出てくる東宝の怪獣映画は3つの怪獣がそろい踏みするので、どれがわるもんやねん、わからへんやないかちゅー突っ込みを入れて観んかった。
そんなあどけなかったわしも中学になると外国映画に興味を持ち始めた。切っ掛けは浜村淳(敬称略)のラジオ番組やったと思う。ラジオ大阪のバンザイ歌謡曲やバチョンといこうという番組でいろいろな映画の興味深いストーリーを聞いたもんやった。浜村はんの解説は新旧いろいろあったが、特に新作のスパイ映画、ギャング映画なんかに力を入れとったようで、わしは、チャールズ・ブロンソン(うーん、マンダムのおっちゃんや)の「シンジケート」、アラン・ドロンの「スコルピオ」、ロジャー・ムーアの「007黄金銃を持つ男」なんかを浜村はんに勧められてロードショウで観たもんやった。
そうした映画ブームにテレビ局が呼応したのか、元からあったのか分らんが、わしが高校生になった頃には、日曜日は淀川長治、月曜日は荻昌弘、水曜日は水野晴郎、金曜日は高島忠夫が午後9時から始まる映画番組の解説をしとった。主に1960年代から1970年代にかけての外国映画をやっとったが、米国映画ばかりということはなく、時々ヨーロッパの映画も紹介しとった。1950年以前の白黒映画を4つの映画番組で取り上げられることはほとんどなく、「七人の侍」「生きる」が取り上げられたくらいやったと記憶しとる。そういう白黒映画は、NHK教育テレビで時折放映されとったが、チャップリンの「モダン・タイムス」「街の灯」「ライム・ライト」なんかや小津安二郎の映画がほとんど見られんかったのは残念やったなと思うとる。
今にして思えば勉強を全然せんと、これらの番組でいろんな社会の出来事を疑似体験して、自分なりにかみ砕いて身に着けたことが今のわしの礎になっとるように思う。例えば、「荒野の七人」で農民出身の優しい少年チコ(ホルスト・ブッフホルツ)が生き残り幸せな将来が約束されたのに比べて、かっこいいオライリー(チャールズ・ブロンソン)やブリット(ジェームズ・コバーン)が早々と銃に打たれて死んでしまうのを見て、長生きしたいもんやなぁと思うたもんやった。また「グレン・ミラー物語」の最後の場面でグレン・ミラーの奥さんが「茶色の小瓶」を聴いて、ニッコリ笑顔を見せるところで、わしは音楽ちゅーのはほんまに凄いもんなんやなと大粒の涙をぽろぽろ流して感動したもんやった。そんなわけでわしは1970年代半ばまでは外国映画のファンやったが、オカルト映画、ホラー映画、怖い場面のある特撮映画が流行しだしてからはほとんど観んようになった。心底わしはそれが苦手やからなんやが、最近になって昔の名画は時々DVDを買うて観るようになった。
船場はクラシック音楽を聴いたり、写真を撮ったりして忙しいようやから、映画はあんまり観てへんのとちゃうやろか。いっぺん訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、感動した映画があるかっちゅーことですね。そうですね、わたしは映像と音楽がぐっと迫ってきて圧倒されるという瞬間がある映画が好きですね。わしもそういう映画が大好きや。「ひまわり」の冒頭のシーンはそのひとつとちゃうか。そうですね、そのとおりだと思います。わたしが好きなのは、「シェルブールの雨傘」でヒロインの恋人が出征するシーンですね。あの名曲の一部が前半の場面の随所に現れるのですが、このシーンのところで最高潮に達します。これは音楽だけでは物足りないですね。他にはないか。「グレン・ミラー物語」も好きですが、「愛情物語」も最後の場面は悲しい場面ではありますが、心を打つシーンですね。感動というのではないですが、「第三の男」でテーマ曲に乗って、オーソン・ウェルズが現れるシーンも映像と音楽が一体となっていて印象深いシーンですね。最近の映画は映像技術が凄いというのはわかりますが、音楽的にはちょっとさみしいという感じでしょうか。そうやなぁ、両方が合わさって、めっちゃ、よかったという映画を観たいもんやなあ。わたしもです。