プチ小説「東山の展望がよいところを訪ねて」(超ビジュアル小説)
空田は、高校生の頃から寺社の写真撮影で何度も京都を訪ねたことがあった。空田は京都では神戸の掬星台や長崎の稲佐山のような高所から見渡すような景色は望めないだろうと思い込んでいて、京都の市街を一望するところから写真を撮ろうと考えたことはなかった。また眺望する場所と言っても、京都タワーくらいしか高いところはないじゃないかと空田は日頃から言っていた。
空田は最近になって、ライカM9を購入し、自分でも鮮明なデジタル画像を撮れるようになったことや、K&Fのアダプターを使用して、オリンパスOMシリーズ用のレンズが使えるようになり、200ミリ(KOMURAのTEREMORE95を使えば400ミリ)のレンズで写すことも可能になったこともあって、一度高台から京都市街を切り取る写真を撮ってみたいと考えたのだった。
空田は休日の午後から自宅を出て、阪急電車と京都の地下鉄に乗り、蹴上に来た。空田は階段を上って駅の入り口まで来ると独り言を言った。空田には大きな声で独り言を言うという悪い癖があった。
「インターネットで調べたら、円山公園から登山道があるようなことが書かれてあったけれど、今日はそんな余裕はない。駅員さんの話では、そこは将軍塚というところで午後2時57分に最終のバスがあるって言っていたけれど、それまでは待てない。ここらあたりでタクシーを拾うことにしよう」
空田がしばらくそこで待っているとタクシーが通りかかったので、手を挙げて意思表示をした。空田はタクシーに乗ると早速情報収集を始めた。
「このあたりに京都が一望できる将軍塚というところがあると聞いたんですが、そこは展望台から遠いんですか」
「私は将軍塚に入ったことはないんですが、将軍塚の中にも展望台があるようですよ。駐車場からも京都市街が展望できるんですが...。南側しか見えないからどうなのかな」
「まあ、そのあたりは将軍塚で聞いてみることにします」
タクシーは10分程で、将軍塚に到着した。
「あのー、すみません。私、ここは初めてなんですが、ちょっと教えてもらえませんか」
「ええ、なんでしょう」
「これから中に入らせてもらうのですが、撮影は可能ですか」
「建物の中は撮影できません。それ以外ならかまいません。また三脚の使用はできません」
「それじゃあ、建物や屋外の撮影などはいいですね。夜間は拝観できますか」
「年2回だけ、夜間拝観をしていますが、それ以外はできません」
「行きはタクシーを利用したんですが、帰りはバスを利用しようと思っています。このあと何時のバスがありますか」
「午後3時20分、4時45分に三条京阪、四条河原町方面行きの京阪バスがあります」
「この施設の外にも展望台があると聞いたのですが、そこにはどうしたら行けますか」
「門を出てしばらく行くと駐車場があります。そこからすぐに展望台があります」
「今、午後2時40分か。ちょっとばたばたするけど、ちょうどいいくらいかな。ありがとう」
「さっきは、K&Fのアダプターを持ってくるのを忘れたのに気が付いて、情けなかったが、40分足らずしかないと考えると、ズミクロン35ミリでじっくり撮るのがいいのかもしれない。うーん、これはなかなかいい景色だぞ」
「展望は素晴らしいけれど、南側が山の陰に隠れて余り見えないな。京都のシンボルと言われる京都タワーを撮りたいなあ。あっちに鉄筋の建物の屋上が解放されている。あれが展望台なのかな。...。おお、これはすごい。さっき見えなかった南の方も眺望できるぞ。ただ今の時間は逆光だな」
「もうすぐ、蹴上の桜も開花するだろうから、その頃にもう一度ここに来よう。その時はK&Fのアダプターを忘れないようにしないと。まだ、バスの出発まで、10分程あるから、駐車場の方に行ってみるか」
帰りのバスの中で液晶モニターを見て、空田は呟いた。
「これじゃあ、平安神宮の鳥居も、京都タワーも芥子粒ほどにしか見えないから、トリミングをしないといけないな400ミリだとどのくらい迫れるのかな。楽しみだな」