プチ小説「青春の光88」

「は、橋本さん、暗い顔をしてどうかされたんですか」
「ああ、田中君。君は悔しくないのか。せっかく、船場君が3月4日に『こんにちは、ディケンズ先生3』『こんにちは、ディケンズ先生4』を刊行したが、何もできないというのに」
「確かに感染症が流行っていて、どこの図書館も休館ですよね」
「船場君は、高槻市立図書館の担当の方に第3巻と第4巻が出版されたら、すごに持って行くと言っていたのに未だ持って行かれずだ。大阪市や名古屋市にも受け入れてもらうつもりでいたのに」
「でも、ディケンズ・フェロウシップの先生方や友人には幻冬舎ルネッサンス新社の担当の方が発送してくださるんですよね」
「そうなんだ。船場君は、先生や友人がどんな印象を持ってくれるか楽しみだと言っていた」
「そうですか、それは楽しみですね。ところで表紙絵のことなんですが、何か意味があるんですか」
「第3巻の表紙絵は、『ドンビー父子』のヒロインであるフローレンスがディケンズと一緒に演奏している。これはフローレンスが小川の夢の中に登場するからなのだが、詳細は読んでいただいてのお楽しみということで。第4巻の表紙絵は、ディケンズ、ピクウィック(『ピクウィック・クラブ』の主人公)、モーツァルトがモーツァルト作曲のピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲「ケーゲルシュタット・トリオ」を演奏している。これは小川、大川、相川がこの曲を演奏するからで、こちらも詳細は読んでいただいてのお楽しみということで」
「そうそう、それから大学図書館にも出版社からの代行発送があるんですね」
「船場君は大学図書館に受け入れてもらうことを楽しみにしている。50の大学図書館が受け入れてくれるといいんだが」
「船場さんは公立図書館に受け入れてもらうために、全国を回られるんですか」
「以前はほんの少しだけ経済的に余裕があったので、北海道、東北、四国、九州の図書館にも出掛けたが、今の状況ではとても無理だ。だから、関西、中部、関東のいくつかの図書館に行けるくらいかな。それもコロナの問題が解決してからだよ」
「そうですよね。いつ解決するかわからないこともあるし、橋本さんの心も晴れないわけですね」
「でもそんなことばかり言ってられないから、今の間にせいぜい小説を書いておけと私は船場君にはっぱをかけているんだ」
「そうですよね。売れっ子になったら、時間がいくらあっても足りないだろうし」
「そうだよ。時間があったから、ディケンズ・フェロウシップで親睦を深めることができたし、クラリネットも少しだけ上手くなった。LPレコードコンサートも滞りなく開催しているし...。もし寸暇を惜しんで小説を書かないといけないということになったら、こういうわけにはいかなかっただろう」
「でも、もうそろそろ、本が売れないと、無駄になってしまう...」
「いや、それはない。すべて船場君の血肉になっているから。違うのは船場君のモチベーションなんだが、これまでも船場君の周辺では、思いがけないことがよく起きるから、私はそれに期待しているんだ」
「ぼくもいいことだったら、大歓迎です」