プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ハムレット編」

わしが小学生の頃、父親の会社で慰安会ちゅーのがあって、梅田のコマ劇場に何度か出掛けたことがあるんや。内容は大衆演劇やったと記憶しとるが、お芝居の中身はみんな日本国内の出来事やった。もしこの時にシェイクスピアの劇(『マクベス』や『ハムレット』は夜中におしっこに行けなくなるから困るやろけど)『ロミオとジュリエット』『お気に召すまま』『オセロ』なんかの子供にもようわかるようなんを見とったら、演劇に興味を持ったかもしれん。その後、大学生の頃に『夏の夜の夢』『お気に召すまま』『ヘンリー四世』『リチャード三世』を、社会人になってから『ジュリアス・シーザー』と『ヴェニスの商人』を新潮文庫や岩波文庫読んだんやが、脚注や訳注が矢鱈目ったら多くて、本筋がなんなんかわからずに最後まで行ってしもうてばっかりやった。ほんでわしは、シェイクスピアは諦めたんやが、船場は最近になって、ちくま文庫松岡和子訳の『ハムレット』を読んで、わしにこう言いよった。にいさん、そら松岡役は、ええでっせ、訳は分かりやすいし、脚注もうまい具合に本文にフィットしてます。そやからにいさんも一回読んでちょーうだいちゅーとったけど、あいつ、他にも松岡訳を読んだんやろか、訊いてみたろ。おーい、船場ー、おるかーっ。はいはい、にいさん、松岡訳『ハムレット』のことですね。ほんま、あれはええですよ。ほんで、お前、他にも読んだんか。いいえ、昨日、『ハムレット』を読み終えたところですから、これからです。これからしばらくは、加賀山卓朗訳『大いなる遺産』を読むので、その後でということになります。とにかく『ハムレット』を楽しんで読み終えることができたということで、ここに簡単に物語のあらすじを書いてみたいと思います。お付き合いください。あんたなんか嫌いなんて言えへんから、気長にやったらええよ。では、物語の最初は歩哨のふたりとその報告を受けたホレイショ―が前王の亡霊を夜中に見ることからはじまります。前王の亡霊は甲冑を着ていて、ホレイショ―らはその様子に圧倒されます。ただならぬ雰囲気で彼らが呼びかけても亡霊が答えないので、ホレイショ―は前王の息子で親友のハムレットに報告し、話しかけてみてほしいと言います。その夜にハムレットが亡霊に問いかけると、確かに父親の亡霊で、現在の王(ハムレットの叔父クローディアス)に毒殺され、しかも妻を奪われた。復讐せよと言います。ここからハムレットの復讐劇が始まるのですが、ハムレットは、父親の亡霊のことを他言しないようにホレイショ―らに約束させて、自らは狂人となった振りをして叔父クローディアスに復讐計画を悟られないようにします。ハムレットが狂気を装ったため、その様子を隠れて探りを入れようとしたクローディアスの腹心のポローニアスがハムレットの剣に刺され、死んだ後にハムレットに森のどこかに埋められます。ハムレットの恋人のオフィーリアはハムレットから告白され、将来はハムレットと結婚する約束をしていましたが、ハムレットが父親の仇討へと方向転換したため、「尼寺へ行け」と言われてしまいます。ハムレットは叔父クローディアスが前王を殺害した確証を得るために、劇団を雇い、叔父が前王を殺害した場面を再現させますが、クローディアスが動揺しハムレットは叔父が前王を殺害したことを確信します。彼女の父親ポローニアスがハムレットに殺され、死体もどこに埋められたかわからない、さらにハムレットからひどい仕打ちを受け精神的に追い込まれたオフィーリアは気がふれて、川に落ち亡くなってしまいます。クローディアスは前王を殺害して王座についた人でしたから、ハムレットをこのまま生かしていると自分の身が危ないと思ったので、隣国の王にハムレットを殺すよう手紙を書いてハムレットの幼馴染に届けさせたり、ポローニアスの息子でオフィーリアの兄であるレアティーズに、父親を殺害し妹を狂わせ死に至らせたのはすべてハムレットのせいと吹き込みハムレットと真剣で試合をさせたりします。クライマックスはハムレットとレアティーズの試合ですが、卑劣なクローディアスはレアティーズに剣の先に強い毒を塗るよう命じます。結局、試合の中で切っ先がハムレットとレアティーズの身体をかすめ、クローディアスもハムレットに刺されたため、レアティーズ、クローディアス、ハムレットの順で亡くなります。ノルウェイの王子フォーティンブラスの一行が到着し、惨状についてホレイショ―に尋ねかけ、ホレイショ―がハムレットを讃えたところで、この劇は終わりますってな感じで筋書きがよくわかりました。私は文語調の台詞が苦手で、それが出た時点で頭を抱えてしまうのですが、松岡訳はそのようなところがまったくなく最後まで楽しんで読ませてもらいました。そうか、そう思ったんやったら、他のも読んだらええんとちゃう。そうですね、次は、『トロイラスとクレシダ』や『アントニーとクレオパトラ』を読んでみたいと思っています。そうか、それやったらわしも『ロミオとジュリエット』を松岡さんの訳で読んでみるわ。