プチ小説「いまこそ読書」

「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「やあ、田中君、船場君がひどく落ち込んでいるので、何とかしてあげられないかと思ったのさ」
「でも公立図書館や大学図書館が開館していない今、船場さんの新刊『こんにちは、ディケンズ先生3』と『こんにちは、ディケンズ先生4』が人の目に触れることはないかと思います」
「ダ・ヴィンチの新刊案内にでも掲載されれば、少しは興味を持ってもらえるかもしれないが...。今のところ、公立図書館と大学図書館だけが頼りなんだ」
「それよりももっと先のことを考えた方がいいかもしれません」
「えっ、それはどういうことだい」
「船場さんは、65才で2度目の定年となりますが、その後すぐに第5巻を出版したいと考えておられます」
「それで」
「それで、そのためには早く取り掛からないとその頃に間に合わないと思うんです」
「そうかもしれないが、今のように1冊も公立図書館や大学図書館に受け入れられていないと自分の作品に自信が持てないというか。このあとを出していいものかと思っているようだ」
「そうですよね。『こんにちは、ディケンズ先生』は2011年9月に出版されましたが、初めにディケンズ・フェロウシップの理事をされていた先生がご自分の大学図書館に受け入れて下さったことで船場さんは自信を持ったのでした。それから東北大学から連絡があり、必要書類を提出したところ、すぐに受け入れてもらえたのでした。それからだんだん大学図書館に受け入れていただくようになり、船場さんは自分の作品に自信を持ったのでした。公立図書館も2館に1館は受け入れてくれたので、あちこち自著を持参して、受け入れを頼んだんでしたね」
「そうさ、そういった反応がない今、動く気になれないんだろう。独りよがりってこともあるから」
「まあ、船場さんが自信を持って2巻同時に送り出したのだから...それより気になるのは、文庫本や新書や単行本を読む人が少なくなったということが、船場さんの本が売れない背景になっているんじゃないでしょうか」
「電子ブックというのもあるからね。それより電車の中でゲームをする人やスマホでいろいろ調べたりする人がいるから、本を読むために割く時間が少なくなったかもしれない」
「それでも新聞や雑誌などで面白そうな本が紹介されてあったら、本好きな人は興味を持つでしょう」
「でも残念ながら、船場君には、そういう応援もない。われわれが船場君のホームページでささやかな宣伝活動をするくらいさ」
「とにかく何かのきっかけで、手に取って本を読むことが人生でとても大切なことで、それをしないと精神が劣化していくことに気付いて、本屋が毎日賑わっているというようになれば、いいですね」
「そうさ、ネットで本を購入する人が多くなったから、だんだん本屋さんも少なくなってきている。雑誌を見るために本屋を利用していた人たちも行くところがなくなる日が来るかもしれない」
「そうかもしれませんね」
「それに手に取って、ぱらぱらと内容を確認したいという気持ちがあるだろうから、文庫本や新書を購入する人も少なくなるだろう。誰が声掛けするかは難しいところがあるが、本屋がなくなったり、読書離れが著しく進まないうちに何か手を打たないといけないと思うのだが」
「船場さんの本が、そのお役に立てればいいですね」
「そうだ、その通りだ。みなさん、是非、船場君のレーベンスヴェルク、エル・トラバッホ・デ・トダ・ス・ヴィーダ、ライフワークである『こんにちは、ディケンズ先生』第1~4巻を読んでください。お願いしまーす」
(手前味噌ですみません)