プチ小説「クラ友だち」
Fがクラリネットを習い始めて7年目の2月、Fより3か月早く同じレッスンを受け始めたN師(先輩であったので、Fはこう呼んだ)と一緒に三条通りにある親子丼の専門店に来ていた。2週間後にある発表会の会場の下見に行った後、昼食を取るために訪れたのだった。
「Nさんは、こちらによく来られるのですか」
「ええ、前の職場がこの近くだったから、以前はここによく来てました。3年前に異動してからは初めてです。ところでFさんは京都のあちこちに行かれるのですか」
「私は大阪生まれの大阪育ちですが、高校生の時に京都に来てから、すっかり京都のファンになってしまって。予備校、大学は京都でした。その後もしばしば京都の神社仏閣をはじめ、あちこちに行っていたのですが、50才になってクラリネットを習い始め、ミュージックサロン四条でNさんとお会いして、7年になるわけです」
「Fさんは、他にも楽器を演奏されるのですか」
「以前、トランペットを購入して、ローレライが吹けるようになりましたが...。独学でやっていたので半音が吹けず、練習の場もないので、半年くらいでやめました。それで、クラリネットはきちんと先生についてレッスンを受けようと思ったんです。Nさんは他の楽器をされるのですか」
「ええ、実は私は単身赴任で東京に居たことがあり、東京ではギターを習っていました。「禁じられた遊び」なら、暗譜で弾けるくらいにはなりました」
「そうですか、私はコードが理解できないので、クラリネットかサックスかなと思いましたが、サックスは音が大きいので、諦めました」
「私がクラリネットをしようと思ったのは、合奏ができるからで、今回で一緒に演奏する、Iさん、Kさん、Bさんは明るく親切で、この7年間は本当に楽しく過ごさせていただきました」
「私も3人の方と一緒にレッスンを受けられたのは本当に良かったと思っています。Nさんも3人の方も上手なので、安心して発表会に臨めました。今回は、チャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレのクラリネット四部合奏版を6人で演奏するのですが、私が購入した楽譜を採用してくださり、有難いことだと思っています」
「私はブリティッシュ・ロックが大好きなので、そういった曲が演奏できるかと思っていたのですが、それが全くなかったんで残念でした」
「以前はビートルズやPPMの曲が音楽之友社の音楽の教科書でよく取り上げられていましたが、最近はまったく載っていないようです。カーペンターズの曲は、レッスンでも取り上げられていましたね。「イエスタディ・ワンス・モア」「青春の輝き」「トップ・オブ・ザ・ワールド」は楽しく吹かせてもらいました。ブリティッシュ・ロックがお好きだと仰っていましたが、私が知らないものを教えていただけたら有難いのですが...」
「私が好きなのはイエス、ELP(エマーソン・レイク&パーマ)ですね。アルバムで言うと、イエスは、「危機(Close to the edge)」、「こわれもの」それからライブの「イエスソングス」もいいと思います。ELPは「タルカス」がお勧めですね」
「私は、以前、ELPの「展覧会の絵」を聞いたことがあるのですが...一度お勧めのアルバムを聴いてみることにします」
「今日こうしてゆっくりFさんと話ができて良かった。というのも発表会が終わったら、引退しようと思っているんです」
「どうしてですか。さっき、みんなと合奏できるのが楽しいと...」
「ええ、できることならそうしたいのですが、サラリーマンですから、もうひと頑張りしようと思っているんです。私は英語と中国語ができるので、しばらく準備をしてから、中国で頑張ろうかと思っているんです。だからFさんとお会いするのも発表会を含めて3回なんです」
「残念だな...。それではお身体を大切にして頑張って下さい。でも、ぼくは何年か後に一緒にレッスンを受けられると少しは期待しているんです」
「そうですね、中国でどのくらいの期間仕事をするのかわからないので、何とも言えませんが、そのお話は有難く胸にしまっておきます」
「長い間、お付き合いいただきありがとうございました」
「こちらこそ」