プチ小説「クラシックはえ~よ」

新型コロナウイルスの蔓延で、LPレコードコンサートの開催どころか、東京の名曲喫茶に行ったり、ディスクユニオン新宿店でクラシックのレコード漁りをすることもできないような状態だ。今のところ、9月にLPレコードコンサートができるかどうかといったところだが、そもそもぼくがこんなにクラシック音楽にのめり込んだ切っ掛けはなんだったんだろう。高校時代はフォークソングとイージーリスニングを主に聞いていて、浪人時代も同じように歌いながら受験勉強することを繰り返していたのではいつまで経っても合格できないだろうと考えたぼくはインストゥルメンタルの長い曲がいいと考え、ジャズとクラシックを聴き始めたのだった。それから2週間ほどして、シャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のブラームスの交響曲第1番をFM放送で聞くんだが、これを聴いてたまたまカセットテープに録音したというのが肝心なことだろう。3度くらい聞くとミュンシュのレコードが欲しくなり、阪急豊津駅近くのレコード屋に行ったのだった。そこにミュンシュ指揮ボストン交響楽団の廉価版が置かれていて、ブラームスの交響曲第1番のレコードを購入して帰ってすぐに家のシャープのセパレートステレオで聴いたが、これがパリ管弦楽団の演奏と違って、早いテンポの荒々しい感じがする演奏だった。当時ぼくはクラシック音楽の初心者で、同じ楽譜で演奏すれば同じような演奏になると思っていたので大変な驚きだった。と同時に2つの考えが浮かんだんだ。好きな指揮者のミュンシュの他の廉価版を購入したいということとそのレコード店に置いていないパリ管弦楽団のブラームスの交響曲第1番を購入したいということだった。ラッキーだったのはミュンシュ指揮ボストン交響楽団は、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」、ベルリオーズの幻想交響曲、シューベルトの交響曲第9番「ザ・グレイト」、フランクの交響曲などの名演を残していて、廉価版で購入できたことだった。それからしばらくしてパリ管弦楽団のブラームスの交響曲第1番のレコードも欲しくなり、購入するために梅田のレコード店に出掛けたのだった。こうして郵便配達で稼いだお金の何某かを廉価版のレコードの購入のためにつかい、いつか買うんだと思いながら梅田の大きなレコード店でレコードを当てもなく物色するようになった。そんなある日、本屋さんで「オーケストラの本」と「ピアノの本」(共にFMfanコレクション 共同通信社)が目にとまり、廉価版のレコードと同じ値段だったが、購入したのだった。それから後はその本やその後購入した音楽之友社のガイドブックに書かれてある推薦盤を購入することになる。いろんな作曲家の曲目や演奏家の名前を覚えだすとクラシック音楽がだんだんと身近に感じられるようになり、自分なりに演奏の良し悪しも分かるようになって来た。学生時代までは、家にあるセパレートステレオで我慢していたが、就職して2年して、自分のステレオが欲しくなった。最初にケンウッドのロキシーというコンポを買ったが、5年もしないうちに大型スピーカーを購入し、プレーヤー、プリメインアンプも買い替えた。ぼくのこだわりはレコードの凸凹の情報を拾う針を重視したことで、それから25年間はオルトフォンのSPUGクラシックという楕円針のMCカートリッジを使い続けた。ラックスマンL570との相性がぴったりで、お金をそれほどかけずに弦楽器の素晴らしい音を聴くことができた。そうして自分のステレオが充実してくると素晴しい楽器の音を聴かせてくれる名曲喫茶に行ってみたくなり、いくつかの店を訪れた。最初に行ったのは、渋谷のライオンだったが、その音にも外観にも圧倒された。それから何年かして阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンに行くわけだが、このふたつに京都出町柳の名曲喫茶柳月堂がベストスリーだと思う。こんな感じでぼくのクラシック音楽の探訪は途切れることなく続いてきた。これからも聞きたいレコード、CDは出て来るだろうし、少しはいいカートリッジを購入したいとか、思い切ってスピーカーを変えてみようという探究心は続いていくだろうが、もしできることなら、オルトフォンのSPUGクラシックをもう一度プレーヤーに取り付けて、昔のしんどい時代のことを振り返りながら、ヴァイオリンのレコードを一日中聴いていたい気がする。ほんとにクラシック音楽がそばになかったら、ここまでやって来れたかと思う。