プチ小説「古書はえ~よ」

新型コロナウイルスの蔓延で、神田の古書街の方もご無沙汰だ。と言っても、ディケンズの14の長編小説(未完の『エドウィン・ドルードの謎』は大学生の時に購入した)の翻訳書も揃ったから神田の古書街で探さなければならない本もないし、風光書房も2015年11月で閉店となったので、御茶ノ水駅で下車しても特に行くところはないのだが、そもそもぼくが古書をたくさん購入するようになった切っ掛けはなんだったんだろう。大学時代は貧乏学生だったが、専門書は全部新品だった。法学部の学生だったので、京都大学や同志社大学近辺の古書店を回ったら、新しい本を買わないで済んだかもしれないが、手垢がついてたり、鉛筆やペンの書き込みが入っている本は嫌だなと思って、ほとんど古本屋に行くことはなかった。ぼくが古書店の威力を感じたのは、社会人になって15年ほど経過して、ダルタニャン物語を全部読みたいと思った時だった(『モンテクリスト伯』を読んで感動して、アレクサンドル・デュマの別の作品を読みたいと思ったのだった)。当時(2006年~2008年だったと思う)の頃は、復刊ドットコムという会社から『ダルタニャン物語』の復刻版が出ていて、それを購入することも考えられたが、できれば講談社文庫で購入したいと考えていた。そんなことを考えながら、神田の古書街を巡っていると小宮山書店で、全11巻が3,000円ほどで売っているのを見た。即、購入して自宅へ配送してもらうことにしたが、この時に多少本が傷んでいても、手垢が着いていても、読みたい本がリーズナブルな価格で購入できるなら、どんどんどしどし買おうと思ったんだ。ダルタニャン物語を心から楽しんだぼくは、デュマかディケンズの著作をできるだけたくさん読みたいと思った。ディケンズは、『リトル・ドリット』『荒涼館』を読んだばかりだったが、『大いなる遺産』『二都物語』『デイヴィッド・コパフィールド』『クリスマス・キャロル』にない新鮮さを感じたので、未読のディケンズの翻訳書がないか探していた。その次に東京を訪れた時に訪ねたのが風光書房だった。店主の方の本の内容についての解説が的確で興味深く、『王妃の首飾り』『赤い館の騎士』それから大正時代に発刊された『黒いチューリップ』を購入した。この後購入した『王妃マルゴ』や『赤い館の騎士』が余りに残酷なので、デュマをこれ以上読むのをやめようと思い、風光書房を訪ねたところたまたま日高八郎訳『大いなる遺産』と佐々木直次郎訳『二都物語』と安藤一郎著『クリスマス・カロル』を購入することができ、ディケンズに傾倒していくことになった。風光書房では他に、北川悌二訳『ピクウィック・クラブ』(三笠書房)、北川悌二訳『骨董屋』(三笠書房)、小池滋訳『バーナビー・ラッジ』(集英社)などを購入することができた。店主の重田さんの本に関する楽しい話はぼくの知的好奇心を刺激しまくった感じだった。特に印象に残っているのは、意識の流れの手法の作家についてのお話だった。重田さんはフランス文学を専攻されたので、プルーストの話をされるのかなと思っていたが、お好きな作家は、オーストリアの作家ヘルマン・ブロッホだった。重田さんの後押しで、(余白がほとんどない)『ウェルギリウスの死』は何とか読み終え、楽しませていただいたが、『夢遊の人々』『誘惑者』をまだ読んでいないので、何とか読みたいと思っている。オーストリアの作家と言えば、重田さんは、シュティフターが一番好きな作家だと言われていたなぁ。神田の古書街では、『失われた時を求めて』全巻、シュテファン・ツワイク全集、エドガー・アラン・ポー全集なんかを購入した。『失われた時を求めて』を2年ほどかかって全部読んだが、未完の小説なので達成感はなかった。今後は、ディケンズの『ハード・タイムズ』(英宝社)の古本を安くで購入できたらと思うけど、他にはほしい本はない。ディケンズが夢の中に登場する自著も4巻まで出版させてもらったことだし、古本の購入はしばらくお休みとしよう。今読んでいる加賀山卓朗訳『大いなる遺産』を読んで、故荒井良雄先生が絶賛されていた『憑かれた男』(あぽろん社)それから小池滋訳シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』を読み終えたら、ツワイク全集からいくつか読んでみようかな。