プチ小説「青春の光92」

「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「プチ小説が800話になったということに気付かないのかなぁ」
「もちろんそれはわかっていますが、最近の状況を見てると楽しい気持ちになれなくて」
「田中君の気持ちはよくわかるが、われわれは空元気でもいいから、みなさんに元気を与えるようでないと駄目だよ」
「それはわかるのですが、感染症の蔓延で経済が沈滞している。たくさんの人が生活に困っている。他府県への移動も自由にできない。夏の暑い時にマスクをしなければならない。第2波がいつ起こるかもしれないなど、心配事が多すぎて...」
「でも、われわれが先頭に立って、人々を導くというわけにはいかない。ほんの少し、気分が良くなりましたでも、わたしと田中君の役割は果たせたということになるのだよ」
「わかりました。では気分を入れ替えて、自分の役割をきっちり果たして行くことにします」
「ところで、船場君の場合、仕事は今まで通りだが、大学図書館が開館しないので、寄贈した自著が受け入れられたかどうかわからない。それで続編を書いていいものかわからない。他府県への移動が自由にできないので、公立図書館に自著の寄贈に行けない。東京は人口が密集しているから、今でも感染症のリスクがとても高い。いつになったら、安心して東京に出掛けることが出来るようになるのかまったくわからない。なのでLPレコードコンサートをいつ再開すればいいのかわからない」
「橋本さんは、船場さんのことが心配なんですね」
「そりゃそうさ。私が何とか、船場君を助けてくれと神様に祈れば助かるというのなら、何万回でも手を合わせるさ」
「でもそういうわけには行かない」
「今回の感染症の問題は、先が見通せないというのが一番の問題なんだ」
「薬が早くできるといいですね」
「そう、そうすれば、オリンピックも...」
「船場さんも、東京に安心して出掛けられるし」
「あっ、船場さん、お久しぶりです」
「やあ、田中君、お久しぶり。橋本さんも。おふたりには本当に世話になっています」
「船場君は今の状況をどう考えている」
「そうですね。封じ込めはうまくいったけど、次はどうするかというところですね。一気に緩和、解除を進めて、悪い結果が出ると振り出しに戻ってしまう。かと言って、いつまでも解除しないままだと経済活動が衰えてしまう。ぼくも日本人の一人として、どのような対応をするのか見つめているしかないですね」
「何か希望が持てることは聞けないのかな」
「災いはいろいろあって、人類はそれをすべて克服してきました。細菌、ウイルスとの戦いにも勝ったから、今でも万物の霊長でいられるのです。これからもそれが続けられるように人類は英知を結集して、いろんな方策を試みることでしょう。みんなが心を一つにして頑張れば、必ず道は開けると信じています」