プチ小説「ショパンはえ~よ」

新型コロナウイルスの蔓延で、コンサートやライブができないだけでなく、吹奏楽部のクラブ活動なども制約されていると聞く。ボーカルはマスクをして歌うわけにいかないから、活動が難しいというのはわかる。でもなぜ吹奏楽がと思っていたら、吹奏楽も息を吹き込むからリスクがあるということがわかった。こう考えると、ピアノやヴァイオリンやギターによる楽器だけのコンサートやライブしかできないということになる。吹奏楽部は感染防止対策を徹底して練習をしていて、人と人との間隔を開けたり、時々空気を入れ替えるなどしているが、本番でスペースを確保するのは難しいだろう。オーケストラは、ステージでひしめき合っている印象を受けるが、ピアノの演奏会は大きなステージにピアニストがひとりである。ピアノはオーケストラに匹敵するという話をよく聞くが、実際、ベートーヴェンの交響曲をピアノ1台で演奏したり、ブラームスの交響曲をピアノ連弾で(four hand pianoとある)演奏したCDがある。現状では今まで通りにコンサートを開催することは難しいと思われるから、ピアノがオーケストラの一部や全部を引き受けてコンサートをすることが増えるかもしれない。そんなピアノの名曲をたくさん作っている作曲家としては、ショパンとベートーヴェンがいる。ベートーヴェンは32曲のピアノ・ソナタが中心となるが、ショパンは、3つのピアノ・ソナタの他、前奏曲、練習曲、夜想曲、ワルツ、バラード、スケルツォ、ポロネーズ、マズルカなど華やかなピアノ曲を作曲している。前奏曲集はコルトーとアルゲリッチ、練習曲集はコルトー、夜想曲集はフランソワとルービンシュタイン、ワルツ集はリパッティ、バラード集はコルトーが思い浮かぶが、なかなか全曲を自分のレパートリーにするのは難しいようだ。だいたいバラード第1番にしても、ものすごいテクニックがいるということはわかる。ショパンの曲を演奏する場合にはそのテクニックだけでなく、あとふたつのことが要求される。ひとつは、ポロネーズやマズルカという独特のリズム感を持つこととショパンの孤独感を演奏の中に取り込むことができることだ。もし演奏が明るくて翳りがなく、流麗で澱みがなければそれはショパンの心情を理解した演奏ではないと言わざるを得ない。とは言え、何より大切なのは曲をきちんと解釈して、聴衆にわかりやすい音楽を提供することだと思う。ポーランドのリズムで演奏していてもショパンが考えたメロディが再現できていないなら、聴衆はぽかんと口を開けて聞き流すしかないだろう。先に上げた曲集の他にいくつか私が好きなレコードがある。まず思い浮かぶのは、グルダが演奏する「アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ」だが、グルダの演奏はオーケストラの伴奏がないにもかかわらず、すごい迫力の演奏で、これに比肩する演奏をまだ聴いたことがない。次はフー・ツォンが演奏するノクターン集、レコード・ジャケットの効果があるのか、この演奏を聴くと懐かしい気持ちにさせる。他に独奏ではないが、ピアノ協奏曲第1番、第2番はフランソワが演奏するレコードが叙情的ですばらしい。若手ピアニストでベートーヴェンやショパンを得意とする人はたくさんいて人気があるのかもしれないが、コルトー、フランソワ、リパッティの演奏はそのお手本となった演奏なので、感染症が蔓延している現状では、少しよいステレオ装置で古の名盤を聴くのがよいと思う。コルトーはSP時代の演奏家なのでかなり音が悪いけれど、フランソワとリパッティはLPレコードとCDが出ていたから、この時期、何度も味わってほしい。