プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ロミオとジュリエット編

わしは、ちいこい頃から吉本新喜劇が好きで、土、日は親と一緒にテレビの前に座って鑑賞したもんやった。岡八郎の大ファンで、「えげつなー」と相手を挑発するシーンでは手に汗を握ったもんやった。もちろんそんな純真な気持ちで親と一緒に吉本新喜劇を見とったんは小学生の頃までで、中学生の頃には、ワンシーンを見るために30分から40分の劇を見るのがしんどくなってきて、ギャグがもっと頻繁に盛り込まれている漫才を見るようになったんやった。そのわしのニーズに答えてくれたんが、土曜日の午後1時30分から読売テレビで放送しとった、「お笑いネットワーク」やった。人生幸朗・生恵幸子、レッツゴー三匹、コメディNo1、チャンバラ・トリオ、大丸・ラケット、横山ホットブラザーズなんかは大好きで、家で昼ご飯を食べながらよう見たもんやった。そんなんやから、長い間わしは効率がええ漫才が好きで演劇、特に喜劇はほとんど見ることがなかった。そやけどわしが浪人している時に、たまたまモリエールの『いやいやながら医者にされ』を読んでなー、喜劇の笑いも捨てたもんやないなと思うたんやった。ほんで大学生になってから、シェイクスピアの喜劇『じゃじゃ馬ならし』『お気に召すまま』『夏の夜の夢』を読んだんやが、全然、笑えんかった。そんで方針を転換して、四大悲劇を読もうと『オセロ』『リア王』を読んだんやが、やはりほとんど理解できず、『ハムレット』と『マクベス』は読まんかった。もっとストーリーがわかりやすい『ロミオとジュリエット』や『ヴェニスの商人』を読んどったら、シェイクスピアの作品に興味を持ったんかもしれんが、それは読まんかった。船場は、この前、『ハムレット』を読んだのに続いて、松岡和子訳の『ロミオとジュリエット』を読んだみたいやが、おもろかったんやろか、訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、にいさん、『ロミオとジュリエット』のことですね。私もにいさんと同じようになかなかシェイクスピアに馴染めなかったんですが、松岡訳の『ハムレット』を楽しく読んだので、『ロミオとジュリエット』を買いました。恥ずかしい話で言いたくないのですが、私はこの有名な劇の台本を始めて読みました。そうかいな、ほんでお前は何で読まんかったんや。それはストーリーが余りに簡単で...というより、若い男女がロレンス神父に乗せられて、自分の命を粗末にするからです。それにロレンス神父の計画が大雑把すぎて呆れてしまうからです。そうかロレンスちゅーのはそんな悪いやつなんか。そうではなくて、若い二人を幸せにするためにあれこれやってみるのですが、すべてが裏目に出るんです。それに何よりロミオが血の気が多く思慮がないのも不幸を導いた原因かなと思います。確かに身内を殺されたというので敵討ちという気持ちはわかるのですが、そのために「追放」となり、ロミオが行き場を失ってしまったというのが、この悲劇の始まりでした。ジュリエットに一目ぼれをしたロミオは、ロレンス神父に相談して結婚しましたが、「追放」となってしまいました。結婚早々、婿はんが追放となっては途方にくれるわな。そこで今度はジュリエットがロレンス神父に相談します。ロレンス神父は仮死状態が42時間だけ続く薬液を飲むことをジュリエットに提案します。このことをロミオに手紙で伝えて、二人は駆け落ちするという段取りだったのが、ロミオに手紙を渡し損ねるという致命的な誤りを犯し、悲嘆のうちに二人の若い男女の命を絶たせてしまいます。ロレンス神父はロミオとジュリエットの幸せを願って、若い年齢での衝動的な結婚を成立させ怪しげな薬液を使っての駆け落ちを計画したが、それが二人の取り返しのつかない不幸に繋がってしまう。こう話している間も、何とかならんかったんかいな、と言いたいところですが、シェイクスピアの台本が余りに完璧なので、二人が救われる道はないように思われます。二人の若者の不幸な死が、モンタギューとキャピュレットの諍いを終結させたというのが救いというのでは後味が悪いですね。そういうわけで、やっぱり後味が悪かったなというのが『ロミオとジュリエット』の感想ですが、でも若い男女の純粋な恋愛の物語はこれからも永遠に語り継がれていくことでしょう。そうやな、劇として見るんは興味深いと思うよ。