プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ペリクリーズ編」

わしがちいこい頃は家にハードカバーの本や文庫本ちゅーのはほとんどなくて、小学一年生とか子供向けの雑誌だけがあったように記憶しとる。小さな長屋住まいで、雑誌を積んどくスペースもなかったんで、月刊誌も2ヶ月くらいで処分しとった。ほんまにわしは小学校4年生くらいまでは本というものにほとんど興味が持てなくて、親せきの家でB5くらいの大きさの「鉄腕アトム」や「鉄人28号」をこっそり読んだという記憶しかない。そういう環境やったから、家で絵本を見たという記憶もなく、童話(絵本)というものをわしが手にしたのは、大学生になってからで、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』と『モモ』やった。これもドイツ語の先生から勧められたもので、自分で探して読んだちゅーもんではなかった。当時エンデはんは物凄い人気で、「ネバ―・エンディング・ストーリー」ちゅー映画も流行っとった。小学生高学年から中学生の頃に「ネバ―・エンディング・ストーリー」や千夜一夜物語に親しんでいたら、アレキサンダー大王が走り回っとった中東なんかに興味を持っとったかもしらんが、そんな機会が全くなかったんで、未だにグローバルな視野ちゅーもんは持ち合わせておらん。とはいうものの浪人の頃から外国の文学作品をいくつか読んだりして、古代ギリシアやヘレニズムそして当時のその外の世界の文化に少しは興味を持っとる。最近船場は松岡和子訳のシェイクスピアを読んでいて、『ペリクリーズ』も読んだようやが、面白かったんか聴いてみたろ。おーい、船場ー、おるかーっ。はいはい、にいさん、『ペリクリーズ』が面白かったかということですね。そうやけど、だいたい『ペリクリーズ』ちゅーのは何を描いとるんや。そうですね、ペリクリーズの波乱万丈の人生が描かれています。最初のところで、まだ未婚のペリクリーズはアンタイオカス(王)の娘に一目ぼれして王から謎を解くよう迫られます。これが終わりまで興味を持たせるのですが、残念ながら、その後は王の出番はなく、最後のところで娘ともども邪淫の罪が正当な報いを受けたとだけ書かれていて、肩透かしをくらわされたような気になります。ですがペリクリーズがタイーサと出会ってからマリーナの出生までが波乱に満ちていて、どうなるんだろうと興味を持って読みました。奇跡的にタイーサとマリーナの命が助かったことで後味のよい結末となるのですが、最後のほうでもどうなることかとはらはらしました。ペリクリーズがふたりとも生存しているのを知ってハッピーエンドとなるわけですが、ペリクリーズが死んだはずの娘が存命していることは夢にも思っておらず、妻に似ていると思っても半信半疑です。このペリクリーズがマリーナへ問いかけるあたりから、台詞が面白くなりテンポも良くなって、タイーサも無事であることが分かり、明るい結末となるのです。そら結構なことやけど、『ペリクリーズ』は場面の設定が大雑把やし、『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』のような完成度の高いもんやないんとちゃう。私もそう思います。それでも超スペクタクルでペリクリーズの波乱万丈の人生は物語の王道と言う感じで、読後感はとてもよかったです。次は、『オセロ』『リア王』『マクベス』『テンペスト』あたりを読んでみようかと思っています。