プチ小説「座談会「意識の流れ」について考える」
「こんにちは「青春の光」で橋本さんの相方をしている、田中です。この座談会の企画は頓挫したと思ったのですが、船場さんから関西弁を掘り下げるのではなく、もっと別のことについて熱い議論を交わしてほしいとの要請がありました」
「田中君が相当困っているようなので、助け船を出すとしよう。船場君から出されたお題が「意識の流れ」ということなんだが、いちびりさん、鼻田さん、何のことだかおわかりですか」
「そらわしらは、ディケンズ先生が船場の小説の主人公小川の頭の中の住人と言うように、船場の頭の中の住人なんやからたいがいのことはわかるよ。ただ違うのは、ディケンズ先生は原則小川の夢の中にしか、出て来ないんやが、わしらは船場が思いついたら、いつでも登場することが出来る。言うたら、船場にとって便利な道具なんや。その道具を決まった小説に登場させるだけやったら、もったいないんとちゃう。NHKでもチコちゃんを何度も再放送しているくらいやから、いちびりのおっさんは「いちびりのおっさんのぷち話」、橋本はんと田中はんは「青春の光」、わしは「たこちゃんシリーズ」だけちゅーんやなしに、いろいろ切って貼って使いまわししようとするのもええんとちゃう」
「確かにそうとも言えますが、それでは船場君が追い込まれて、苦肉の策を弄しているというように聞こえます。そうではなくてプチ小説も800作品を超えたことですし、「青春の光」は93話、「たこちゃんシリーズ」は63話、「いちびりのおっさんのぷち話」は75話を創作して、次のステップに入ると考えた方が、よろしいんじゃないでしょうか」
「ほお、田中さんはそう考えとるんや」
「つまりわれわれが、自分が登場する小説を飛び出し、別のお相手と会話を楽しむというのがいいと思います。簡単に言うと、僕の場合、橋本さんや船場さん以外の人と例えば、「肩透かし合うふたり」とかいう小説で女性と共演するというのがあります」
「わしは反対やな、だいたいわしは出不精で人見知りをする男やから船場となら、気楽に話せるけど、女と話すんは苦手やな」
「まあそこは船場さんの配慮があるでしょう。だいたいいちびりさんが一度に何人もの女性をと話をするというのは、今までの船場さんとの対話を読んできた人には想像できないことでしょう」
「なるほで、いや、なるほどほんで、この座談会も新しい形でスタートするということなんか」
「そうです。今までは、「関西弁」を扱っていたので、自由にいろんなことを言えたのですが、あまりに広い範囲にわたるので、このプチ小説では結果として言い足りず、悔いだけが残るという感じでした」
「それで、船場が少しは掘り下げて話ができる「意識の流れ」ちゅーのをとりあげることにしたんやな」
「そうです、われわれはただの中年のおっさん3人と中堅の事務員1人ですが、船場さんの頭の中の住人ですから、「意識の流れ」について知っていることを話せばよいと思います。では、鼻田さん、どうですか」
「それより、わしも早く女の子と小説で共演したいんやけど、どうしたらええんや」
「それは日頃の行いというか。そうですね。たこちゃんシリーズや座談会シリーズで船場さんに、おもろいな、よう知っとるなと思わせれば、いいんじゃないでしょうか」
「そうか、わかったでぇぇぇ。「意識の流れ」は船場はんの『こんにちは、ディケンズ先生』で使われている手法で、登場人物の心の中を描いとる。<>というふうにかっこでくくっている。船場はんは、人間が心の中で思っていることも文章にすれば情景であり、それは文学的価値があると考えているようや」
「わしもしゃべってええか。「意識の流れ」は船場が考えたんやなくて、18世紀の小説家、ロレンス・スターンが考えたもんや。20世紀に入って、ジェイムズ・ジョイス、マルセル・プルースト、ヘルマン・ブロッホなんかが、「意識の流れ」の手法を追求したんやが、船場はこの手法を自分の小説に取り込もうと試行錯誤しとる。「学ぶ」は「まねる」からちゅーことで、スターンの『トリストラム・シャンディ』、ジョイスの『ユリシーズ』、プルーストの『失われた時を求めて』、ブロッホの『ウェルギリウスの死』なんかを船場はなんとか読んだようや。こういうパロディ文学が楽しいことは、船場は大学時代にドイツ語の先生から教えてもらったらしい」
「なかなかいい感じです。では橋本さん、締めてください」
「わしも早く白塗りを卒業して、別のキャラでプチ小説に登場したいところだが、白塗りを期待している人がいるのだから、そういうわけには行かない。船場君のスタイルが「意識の流れ」を少し取り入れていると解釈するなら、難しいことを書いていると思われることはなくなるだろう。「意識の流れ」という手法を使って登場人物の心の中を垣間見せることで、親近感を持たせることができれば、それで十分と船場君は考えているようだ」
「ありがとうございます。それではみなさんのご活躍を陰ながら祈っています」
「なにゆうとんの、あんたもこれから別のプチ小説で活躍するんやで」
「......」