プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ビル・エヴァンス編

わしが中学生の頃、自宅にオルガンがあったのを記憶しとる。鍵盤の大きさは標準で4本の80センチくらいの長さの足が支えるタイプのやつやった。小学生の頃に学校で楽器を習った記憶はないから、両親が子供の隠れた才能が出やすいようにと大枚はたいて購入してくれたのかもしれんが、ほとんど弾かれることもなく、引っ越しの時に姿を消したんやった。それでもギターと違って、チューニングをせんでも正しい音程の音が出るというのは便利やなーと思うたもんやった。オルガンは一時自分がすぐに弾けるところに置いてあったことはあるけど、ピアノは未だに遠い存在や。そやけど聴くことやったら、クラシックでも、ジャズでもピアノが中心になっている曲はようさん愛聴してきた。クラシックでは、モーツァルト、ベートーヴェンそれからショパンの曲が好きなんやが、特にショパンのワルツや夜想曲は大好きやな。ジャズではやはりどの演奏家が好きかということになるんやろけど、わしはビル・エヴァンスやな。どれがええのんと訊かれたら、なんちゅーても、スコット・ラファロとポール・モチアンと組んだビル・エヴァンス・トリオの4つのアルバム「ワルツ・フォー・デビイ」「ポートレイト・イン・ジャズ」「エクスプロレイションズ」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」やと答えると思う。「ワルツ・フォー・デビイ」と「ポートレイト・イン・ジャズ」は文句なしで、いつ聴いても心が時めくんやが、「エクスプロレイションズ」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」はちょっと冷めたようなところがあって、のめり込めんところがあるんやが、ラファロの演奏に引き込まれるんで、他のレコードよりかずっとええと思うとるんや。船場も30才の頃からジャズを聴き始めて、最初からビル・エヴァンスのファンちゅーとったから、他にもええレコードを知っとるかもしらん。ちょっと聴いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、にいさん、ビル・エヴァンスの名演のレコードがないかということですね。ぼくもエヴァンスが好きで、いろいろ聴いてきました。兄さんからお話があった4つのレコードは誰もが推薦するレコードですが、それ以外というのは意見が分かれるところです。ピアノ・トリオでの演奏が多いですが、トランペット、サックス、ギターなんかと共演しているレコードがいくつかあります。ジム・ホールと共演した「アンダーカレント」は選曲がすばらしく、ジム・ホールのギターが素晴しいので文句をつけるところがないという感じです。お次はやはり、ジャケットの女性の美しさに惹かれて思わず買ってしまう「ムーン・ビームス」です。ただただ美しい音楽が繰り広げられますが、「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス(水玉模様と月光)」はその中でも出色の出来だと思います。最後にもう一つ、「エンパシー」は・・・。やはりそう来たか。わしも「エンパシー」は大好きや。「ダニー・ボーイ」「ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート」「グッドバイ」という有名曲が入っとるからやが、特に「ダニー・ボーイ」は素晴らしい。そう言うたら、船場、お前、「ダニー・ボーイ」は、ディケンズ・フェロウシップの懇親会で吹かせてもろうたり、ディケンズ・フェロウシップの会員の人と共演したりして、自分で演奏もやっとるんやな。はい、そうです。後はコンボやオーケストラをバックにダニー・ボーイ(グリーン・スリーブス)を演奏してみたいなと思いますが、それはそれとして、ビル・エヴァンスのレコードは小説を書く時の友(BGM)としてぴったりなので、今後もしばしば聴くことでしょう。