プチ小説「ワンホーン・カルテットはえ~よ」
新型コロナウイルスの蔓延で、遠方への旅行や密閉された空間での音楽活動などの自粛が求められている。遠方に出掛けて写真を写したり、大好きなクラリネットのレッスンが受けられないのがやるせないが、こういう時はこのページで昔の楽しい思い出に浸って、少しでも有意義な時間に変えたいものだ。今から、19年前のことだが、思い立って東北と北海道を4日間で回ったことがある。仙台、山形、青森、函館、札幌、小樽の他、岩手県内もいくつか名所を回った。平泉駅で下車して、毛越寺と中尊寺を回った後に一ノ関で下車して、有名な名曲喫茶ベイシーに寄ったのだった。開店してすぐだったので、店主の菅原氏しかおられず(業界の方がおられた気もするが)、他の客がおられなかったのでリクエスト曲も掛けていただいた。一ノ関の駅を降りた時から、いやもっと前から、どのレコードをリクエストしようかと考えていた。とにかく日本一のオーディオ装置と言われていたので、それに似合った曲は何だろうといろいろ考えたのだった。最初に浮かんだのは、当時聴いていたのが、バンド(楽団)ではなく、トリオ、カルテット、クインテットなどのコンボだったのでその中からにしようということだった。次にピアノ・トリオでは管楽器の音が聴けなくて欲求不満が残るし、管楽器が2本以上だと落ち着いてひとつの管楽器の音が聴けないと思い、ワンホーン・カルテットの曲のいずれかをというところまで絞った。一般的には、トランペット、アルトサックス、テナーサックスの3つの楽器ということになるが、ベイシーの落ち着いた雰囲気の中で、アルトサックスは合わないように思ったので、アート・ペッパーの「ミーツ・ザ・リズム・セクション」やポール・デズモントの(と言ってもリーダーはデイブ・ブルーベックなのだが)「タイム・アウト」は見送ることにした。🎺とテナー🎷が残ったが、トランペットでは、マイルス・デイヴィス、リー・モーガン、クリフォード・ブラウン、ケニー・ドーハム、テナー・サックスでは、スタン・ゲッツ、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、のいずれかと言うことになった。と、ここで一考して、名演が古い録音でしか聴けない、クリフォード・ブラウンとスタン・ゲッツは別の機会にということになった。またワンホーンでの名演をぼくが知らない、マイルス・デイヴィスもそういうことになった。それでリー・モーガンの「キャンディ」、ケニー・ドーハムの「静かなるケニー」、ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」、ジョン・コルトレーンの「バラード」が残ったのだったが、録音年を前から順に書くと、1957年、1959年、1956年、1961年~1962年となっている。それでここは機械的に比較的新しいものを2つということになり、「静かなるケニー」か「バラード」のどちらかということになった。そして最終的には、収録曲ということになったが、「バラード」には、「セイ・イット」「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」「イッツ・イージー・トゥ・リメンバー」という魅力のある曲があるが、「静かなるケニー」のA面「ロータス・ブロッサム」「マイ・アイデアル」「ブルー・フライデー」「アローン・トゥゲザー」特に「ロータス・ブロッサム」の最初のシンバルの音や「マイ・アイデアル」を無性に聴きたくなり、菅原氏にぼくは「あのー、リクエストしてもいいですか。「静かなるケニー」のA面をお願いします」と言ったのだった。菅原氏はすぐに掛けて下さり、ぼくは大きなスピーカーから流れだす、トランペットの”静かな”音に耳を傾けたのだった。因みにそれから遡ること7年前に渋谷の名曲喫茶ライオンで持参のレコードを掛けてもらった。その時は、ヤッシャ・ハイフェッツのブルッフ スコットランド幻想曲の旧盤(スタインバーグ指揮RCAビクター交響楽団)だったが、名曲喫茶ライオンの店内に入ってその雰囲気にぴったりと思い、持参した10枚ほどのレコードの中からその10インチ盤をすぐに選び出したのだった。