プチ小説「モーツァルトはえ~よ」
新型コロナウイルスの蔓延で、コンサートやライブが思うようにできないだけでなく、部活、音楽教室なんかも思うように再開できない状態が続いている。こういう時は好きなクラシック音楽を思う存分に聴いてやるせない思いを一掃したいものだ。どうせなら普段まとまって聴くことがない。モーツァルトの短調の曲をまとめて聴くというのもいいのかもしれない。というのは、モーツァルトの短調の曲は暗い曲想の部分が多いが、曲のどこかで心が晴れるところがあるからなんだ。ト短調交響曲とも呼ばれる第40番の交響曲は有名だけれど、交響曲第25番も映画「アマデウス」で使われて有名になった。交響曲第40番は悲しみの交響曲と言われることもあり、特に出だしのところは嘆きと戸惑いが連続しているようでやり場がなくなるが、第2楽章には芽生えた希望が膨らんでいっているようなイメージがある。ピアノ協奏曲第24番(ハ短調)の出だしはとてつもなく暗いが、第2楽章はとても美しいし、煩悶が見え隠れするが終楽章の後半部分は明るい希望に満ちた曲想なんだ。弦楽四重奏曲第15番(ニ短調)の出だしは寒っと思わず言いそうになるような悩ましいメロディだが、そのすぐ後に来るメロディはとても明るく、このふたつの主題を行ったり来たりする。終楽章も暗い曲想のメロディが続くけど、最後近くで窓から薄日が差すように少しだけ明るくなる。それでも第1主題がもう一度顔を覗かせそのまま終わってしまう。他にもピアノ協奏曲第20番(ニ短調)もあるけど、この曲も第1楽章の出だしがとても暗いが、第2楽章がとても愛らしくて、第2楽章の美しさが際立つ曲なんだ。そうだ同じことがピアノ・ソナタ第8番(イ短調)にも言える。ぼくの一番のお勧めは、弦楽五重奏曲第4番(ト短調)なんだ。第1楽章で薄日が差すところも好きだけど、終楽章の後半部分の明るさは、本当に救われたという気持ちになるんだ。だからベートーヴェンやブラームスの音楽に浸っている人も、このようなモーツァルトの音楽の違った側面が見られる曲を聴いてほしいと思うんだ。ベートーヴェンの「運命」やピアノ協奏曲第3番、ピアノ・ソナタの「悲愴」「月光」「テンペスト」「熱情」第32番やブラームスの交響曲第1番と第4番、チェロ・ソナタ第1番といった重厚な曲を聴くとモーツァルトの音楽が軽く聴こえてしまうけれど、モーツァルトに重厚な曲を作曲してほしかったというのは無理な注文で、普段明るい曲を歌っている歌手にシューベルトの「冬の旅」を歌ってくださいと言うのに似ているから、モーツァルトなりに明暗を使い分けた曲を楽しむといいと思うんだ。