プチ小説「インパチェンスの花が咲く頃に」
「ねえねえ、お母さん、私にも水撒きさせて」
「はいはい、どうぞ、でもあまり水圧を強くしないでね。いっぺんにたくさんの水を掛けると短時間ですむけど。それでは花が傷んでしまうの。少しの量をじっくり時間を掛けてやるのがいいの。こんな感じで円を描いて」
「はーい、わかりました。でもこのお花、とってもすてきね。だって枯れた花を摘むと次の蕾が次の日にはすぐに開くの。色だって、白、赤、ピンク、紫、オレンジ色っぽいピンク、その間の色もあって、とってもきれいだわ。葉が見えなくなるくらいいっぱいお花を咲かせるし」
「このお花のこと気に入ってくれたのね。インパチェンスていう名前なの」
「インパ...長いから覚えられるかしら」
「でもここで毎年咲かせているのに今年に限って知子にはきれいに見えるのかしら」
「お母さん、覚えてないの。2ヶ月ほど前、溝に落ちた、この花の苗を拾って植木鉢に植えるのを手伝ったのを」
「そうだったわね。知子に手伝ってもらったのを覚えているわ」
「だから、どんなにたくさんの花が咲くか、とても楽しみにしていたの。お花を植えるの手伝ったの初めてだったし」
「そうね、自分で植えると興味が湧くわね」
「お母さん、ちょっと聴いてもいい」
「何かしら」
「このお花も溝に落ちていたのを植えたし、チューリップの球根も納屋に置いてあるのを冬に植えて育てているけど、種とか球根を買ったりしないの」
「知子は、チューリップの花の球根が納屋に置かれてあったから、咲いた花があまりきれいでないとおもったの?」
「ううん、お花はきれいだったわ」
「こんな小さな花壇で趣味でしているだけだから、わざわざ種や苗や球根を買うことはあまりしないの。インパチェンスもチューリップもきちんと育てれば、きれいな花を咲かせてくれるわ」
「水をあげればいいの?」
「もちろんそれを欠かすと花は枯れてしまうわ。毎日きちんとあげないとね。それから土壌を豊かにしないと植物は元気で頑張れないのよ」
「ああ、わかった、だからおかあさん、チューリップを植える時になにか大きな袋から、砂のようなものを入れているのね」
「そうよ、肥料をね。そうして大切に育てれば、その時期になると可愛らしい花を咲かせるの。知子のような」
「なにか、てれくさいけど、お母さんと一緒に花を育てるの楽しいから、これからもお手伝いさせてね」
「そうね、手伝ってほしい時には声を掛けるわね」
「きっとよ」
「ふふっ、お母さんも楽しみにしているわ」