いちびりのおっさんのぷち話 オセロー編

わしがちいこい頃は、第一次プロレスブームの終わり頃やった。力道山は暴漢に刺されて亡くなっていたけど、その代わりに悪役レスラーが日本のプロレス界を盛り上げていたと思うんや。一番印象に残っているのが、デストロイヤーで、こちらは後にすごいええ人になって、バラエティ番組にも出演するんやが、噛みつきのブラッシーや鉄の爪のフリッツ・フォン・エリックというのもおった。当時の外人タレントでE.H.エリックというのがいて、兄弟がおると聞いていたから、フリッツ・フォン・.エリックとE.H.エリックは兄弟やと長い間思うとったんやが、岡田真澄という俳優が弟と知って、やっぱりなーとわしは思うたんやった。母親が流血嫌いやったから流血のない番組を選択することになり、ブラッシーが登場してからはプロレスは見られんようになった。小学6年の頃に第2次プロレスブームがやってきて、メキシカン・プロレスのミル・マスカラスやドスカラス大活躍しとったんやけど、あまり悪役レスラーの話は聞かんかった。わしが社会人になって、自分のテレビを買うまで、チャンネル権は父親が持っとったが、母親が暴力的なものやお色気番組は倫理的な見地からこらあかんと判断し、おとうちゃん、これはようないんとちゃうとか言うて、子供に見させんかった。だからわしは、こっそり深夜の11PMは見とったが、母親が起きてる、金曜日午後8時からのプロレス中継は見れんかった。大学生になって友人の下宿で、金曜日午後8時からの新日本プロレスや土曜日の夕刻の全日本プロレスを見ては胸を躍らせたもんやった。その頃の悪役はブッチャーで、新日のタイガー・ジェット・シンよりも人気があった気がする。ブッチャーは漫画にもなったし、流血せーへんかったら、かわいいおじさんやったから。今もジャイアント・馬場とブッチャーがリングの上で対峙するのを思い浮かべると大学時代に友人の下宿でプロレス中継を見ていたのを思い出して、胸が熱くなるんや。それはさておき、最近、シェイクスピアの最強の悪役とも言えるイアゴーが登場するオセローを船場は松岡和子訳で読んだらしい。わしもずっと以前読んだんやが、オセローとデズデモーナがあまりに気の毒で、なんでこんな辛い話を劇にするのんと思うたもんやった。船場はどない思うとるんか、訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、オセローは読むのが辛いということですね。そうや、なんでシェイクスピアはんは大悪役の奸計が物語の終わり近くまで通用する話を書いたんやろ。イアゴーの奸計は、オセローに嫉妬の感情を植え付け、殺人をさせるまでエスカレートさせるんやが、友人?のロダリーゴーと共謀して副官のキャシオーを窮地に追い込んだり、デズデモーナの父親ブラバンショーに父と娘の縁を切らせたりもする。そうですねそのようにしてだんだんオセローを追い詰めて、最後にデズデモーナをオセローの手で死に追いやる。私は、物語としては悲惨の一語に尽きると思いますが、この劇は感情移入がとてもやりやすいと思うんです。学芸会で取り上げるわけには行きませんが、オセローの嫉妬から始まる憎悪、イアゴーの悪魔的な計略、デズデモーナの戸惑い等々、それぞれが感情移入をして力の籠った熱演となるにちがいありません。そやけどなー、わしはあまり力むと、へーが出てしまうんであんまりようないと思うんや。でも名優が演じるのですから、最後まで緊迫した劇が続けられると思います。わしは息抜きがほしいな。最後まで緊張しっぱなしはしんどいわ。どっかで、シェイクスピアで言うなら、フォルスタッフ(実は『ヘンリー四世』はまだ読んでへんねんけど)みたいな人物が出てきた方がえんとちゃうと思うんや。にいさんらしいですね。