プチ小説「グリーク好きの方に」

小川と井上は、グリークのピアノ協奏曲のリパッティ盤を聴き終えると柳月堂を出た。ふたりは出町ふたばで豆大福を購入すると、近くのベンチに腰掛けてそれを食べ始めた。
「小川君は、今の演奏どう思った」

「井上君から、三大ピアノ協奏曲の話を聞いて、何がそれにふさわしいか昨日一晩考えたんだけど...」
「グリークかラフマニノフ第2番のどちらがふさわしいかということだよね」

「どうなんだろう。井上君の話では、ベートーヴェンの「皇帝」(ピアノ協奏曲第5番)とチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番プラスラフマニノフかグリークかということなんだけど、ぼくは、ドイツ・オーストリアの作曲家の作品の方が優れているような気がする」
「というと、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、シューマンとかかな」

「そうなんだけど、まさかベートーヴェンの3、4、5で決まりというわけにいかないから、モーツァルトは21、23、24、27の中からとか、ブラームスは第2番がいいとかひとりの作曲家から1曲選ぶことになる」
「他にも選ばれそうな曲はあるかな」

「あとはラフマニノフの第3番とか、リストの2つのピアノ協奏曲くらいかな」
「ショパンはどうかな」

「これは僕の意見なんだけど、管弦楽の部分をショパンが自分で作曲したのか疑問に思っている。ピアノの部分はショパンらしい華やかなメロディが展開するけど」
「なるほど、じゃあ、小川君の三大ピアノ協奏曲というのはどうなるのかな」

「「皇帝」はベートーヴェンのピアノ協奏曲の頂点というのは誰もが思うことだろうけど、僕個人は、第3番、第4番も魅力的な曲だと思っている。ベートーヴェンの3曲で決まりということにしたいけれどそれじゃあ面白くない。またベートーヴェンと同じようながっしりした構成のブラームスのピアノ協奏曲第2番とか天国的な調べと言われるモーツァルトのピアノ協奏曲第27番も入れたいところだ。でもドイツ・オーストリア以外の国から、1つか2つ入れたいところだね。ここで僕の好みを正直に言わせてもらうと、実は僕はチャイコフスキーのピアノ協奏曲は後半しりすぼみのような印象を持っていて、僕は迫力に欠ける気がする」
「ふーん、ということは、チャイコフスキーは外れる?ということかい」

「そうなんだ。だから今までの僕の意見をまとめると、まず「皇帝」とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は推したい。あとはドイツ的なブラームスのピアノ協奏曲第2番か、グリークのピアノ協奏曲のどちらかを推したい」
「どちらか選んでよ(笑い)」

「「皇帝」はバックハウスをはじめたくさんの名盤がある。ラフマニノフの第2番はリヒテルの名盤がある。ブラームスの第2番もバックハウスの名盤がある。でも残念だが、リパッティのグリークはシューマンほどの出来ではない」
「それじゃあ、シューマンにすればいいじゃないか」

「そうすると、ベートーヴェン、ブラームス、シューマンとドイツ・オーストリアの作曲家ばかりになってしまう可能性が出て来る」
「なるほど、そうなるかもしれないね」

「だから、一番いいのはグリークのピアノ協奏曲の名盤を探すことなんだ。リヒテル、ルービンシュタイン、ギーゼキングそれから辻井伸行もCDを出しているから、このあたりを聴いたら、名盤が見つかるかも」
「そうか早く見つけて、小川君が推薦する三大ピアノ協奏曲を決めてよ」

「井上君はどうなの」
「僕はそんなにレコードを聴いているわけではないから、「皇帝」、チャイコフスキーの第1番、ラフマニノフの第2番でいいように思う。グリークは演奏時間が30分前後で少し物足りない気がする」

「うーん、井上君の意見に賛成したいけど...」



(続く)