プチ小説「友人の下宿で18」

「みなさんお忙しいところお集りいただき有難うございます。本日はクラリネットが主役の作品を
 まとめてお聴きいただくということです。それでは、高月さん張り切ってどうぞ」
「クラリネットはモーツァルトの少し前の時代に改良が加えられ音域が広がったため、モーツァルトが多くの
 名曲を残しています。モーツァルトは本日お聴きいただく、協奏曲と五重奏曲の他、セレナードや
 ディヴェルティメントでもクラリネットを活躍させています。その前後にウェーバーがいくつか
 協奏曲を作曲していますが、余り有名ではありませんし心を動かされる旋律もありません。その後
 クラリネットが脚光を浴びるようになるのは、晩年のブラームスが当時有名だったクラリネット奏者
 のためにいくつかクラリネットのための作品を作曲した時ですが、本日はそのブラームスの五重奏曲と
 2つのソナタをお聴きただこうと思います。最初はモーツァルトのクラリネット五重奏曲からお聴き
 いただきます。本日はすべて私の大好きなジェルバース・ド=ペイエのクラリネットでお聴きいただきます」

「次は、モーツァルトのクラリネット協奏曲です。クラリネットの曲では最も有名な曲で、あのジャズの
 大家のベニー・グッドマンもレコードを残していますし、フランス映画でこの曲の旋律が使われていた
 のを聴いたことがあります」

「先にブラームスのソナタ2曲を続けて聴いていただきましょう。私は混じりけのないクラリネットの
 音がよく聴き取れるので、この曲が、なかんずく、好きなのですが、特に第2番の方は、クラリネット
 特有の暖かみのある優しい音色を堪能するために最適の曲のように思います」

「最後は、ブラームスのクラリネット五重奏曲です。ブラームスの最晩年の曲で、その時のブラームスの
 心境が反映されていてしんみりして来るのですが、曲としては本当にすばらしいものなのでお聴き下さい」

「百田、どうしたんだ」
「おお、こんな悲しい曲は聴いたことがない。晩年のブラームスの孤独感が表現されているようだ。
 高月さん、できれば、こう明るくなるやつをやってもらえませんか。そうじゃないと、ぼくは多感すぎるので、
 こういうのを聴くとじんとして涙を止められなくなりますもので...。えーん」