プチ小説「座談会「テナーサックスの名盤」について考える」
「こんにちは、「青春の光」で橋本さんの相方をしている、田中です。今日は「テナーサックスの名盤」についてみなさんにご意見をいただきたいと思います。私個人の好みでは、コルトレーンのマイ・フェイヴァリット・シングスがベストだと思うんですが」
「田中はん、それは間違いや」
「間違い、はてさて、私には訳が分からないのですが...」
「確かにコルトレーンはテナーサックスのジャズ・ジャイアンツではあるんやが、「マイ・フェイヴァリット・シングス」というアルバムの最初の2曲はソプラノサックスで演奏しとる。そやから正確に言うとテナーサックスの名盤とは言えないということになる。それに...」
「まだあるのですか」
「わしの好みじゃない。あまりにマイ・フェイヴァリット・シングスの出来が良すぎるし長大やから、他の曲が霞んでしもうとる。「サムシン・エルス」の枯葉や「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」のラウンド・ミッドナイトや「モーニン」のモーニンのような感じやな」
「それはいちびりさんの個人的な意見で、他の人に押し付けるのは良くないと思いますよ。誰でもジャズ喫茶で、「サムシン・エルス」のA面をリクエストしたら、枯葉が終わったらすぐに席を立たずに、ラブ・フォー・セールが終わるまで静かに聴きますよ」
「そうか、わしが悪かった。けどな、コルトレーンの名盤を一つ上げるなら、やっぱり「バラード」やで」
「そうですか、ぼくはワンホーンなら、「ソウル・トレイン」、リー・モーガン、カーティス・フラーと3人でフロントを固めた「ブルー・トレイン」が素晴しいと思うのですが」
「あんたら、船場はんがコルトレーンのファンやからゆうて、コルトレーンのアルバムばっかり讃えててもしゃーないで。コルトレーンはこのくらいにしておいて、他ないんか」
「鼻田さんが選んだ名盤というのはないですか」
「最近、船場はんが気に入ってよう聴いとるのに、「グランド・エンカウンター」というアルバムがある。ただこのアルバムのリーダーはピアニストのジョン・ルイスやし、ピアノ・トリオの他にジム・ホールが加わっとる。それでもビル・パーキンスのテナーサックスは心地よくて、何度聴いても飽きが来ない」
「橋本さんはどうですか」
「みなさん、渋いところを期待していると思うので、ズート・シムスの名盤を探すということになるけど、「クッキン」なんてどうやろか」
「「クッキン」もいいですが、「ダウン・ホーム」が一押しじゃないですか。そうだ、コルトレーンの他にあとふたりジャズ・ジャイアンツがいますね」
「そうや、スタン・ゲッツとソニー・ロリンズや。どちらもおびただしい数のレコードを録音してるけど、ワンホーンとなると、ゲッツは「プレイズ」、ロリンズは「サキソフォン・コロッサス」となるやろな」
「彼らの他のアルバムはどうですか」
「いろいろ聴いてみたけど、ロリンズはひとつのアルバムで1曲だけちゅーのが多いわ。ゲッツは「ゲッツ&ジルベルト」それからギターのジョニー・スミスと共演した「バーモントの月」がええんとちゃう」
「最後にいくつかお好きなアルバムを上げてください、鼻田さん」
「レコードしか持っとらんけど、ガトー・バルビエリの「ボリビア」のA面は一聴の価値はあるでぇぇ。やっぱりデクスター・ゴードンは外せない。「アワ・マン・イン・パリ」はバド・パウエルもええし。正統派という感じで行くなら、J.R.モンテローズの「ザ・メッセージ」というのもええやろな」