プチ小説「友人の下宿で19」
「みなさん、お忙しいところお集まりいただき有難うございます。本日は、ロマン派の交響曲を
3つお聴きいただくということです。それでは、高月さん、張り切ってどうぞ」
「前回、最後の曲がさみしい曲だったので、今回は少し賑やかな交響曲を聴いていただくことにしました。
それでも終始一貫明るい曲というものはあまりないので、その点はご了承下さい。今日はロマン派の
交響曲を3曲聴いていただきます。最初は、シューベルトの交響曲第9番(第8番)「ザ・グレイト」
です。シューベルトの死後、10年程してシューマンが自筆の楽譜を入手しメンデルスゾーンの指揮で
初演された曲です。シューベルトは名声を得ることなく失意のうちに若くして亡くなったことは、映画
「未完成交響楽」に描かれています。シューベルトはモーツァルトやベートヴェンとは違ったタイプの
天才であると思いますが、彼が残した作品は今でも多くの人々に感動を与えていると思います。
ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏でお聴き下さい」
「次は、シューマンの交響曲第3番「ライン」です。シューマンはもともとピアニストで、練習のし過ぎで
指を痛めて作曲に専念することになったため、ピアノやピアノ伴奏の曲に名曲が多いのですが、この曲は
美しい旋律が随所に見られ、また標題音楽であるため親しみやすく、シューマンの管弦楽作品の中で最も
親しまれている曲と言っていいでしょう。演奏は、セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏でお聴き下さい」
「最後は、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」です。メンデルスゾーンがスコットランドを
訪れた時の印象を交響曲にしたものですが、洗練されていてしかも少し翳りがある曲なので、さみしい感じが
するようだったら申し訳ない。マーク指揮ロンドン交響楽団でどうぞ」
「百田、どうだった」
「今日は3つとも楽しめたよ。高月さんも気を使ってくれて、有難かった。それより、ずっと高月さんに
しゃべらせてばかりだから、今度はゼミの研究発表みたいな感じで、自分の好きなクラシックの曲を紹介
してみてはどうだろう。安城はロックのファンだから参加は自由だけれど、名取と野山は最近クラシックを
よく聴くと言っていたから...。どうかな」
「いいよ」
「俺も」
「じゃあ、次の集まりの時には各自レコードを用意して来るように」