プチ小説「新京阪橋を挟んでの熱いたたかい そんなアホな編」

前回のあらすじ
再雇用となった初老の福居は平凡なサラリーマンだったが、ある日の帰り道、自分より20才位年下ののヴィッセル神戸のイニエスタ選手に似た男性(福居は、イニエスタ赤坂と呼んでいた)の挑発的な行動により、ささやかな反抗をすることを思い立った。その男性に抜かれることなく何が何でも阪急相川駅に到着しようと思い立ち、しばらく筋力トレーニングに励んだのだった。ある程度筋力が付き、300メートル位なら全力疾走できると考えた福居は、脇道からイニエスタ似の男性の10メートル前に出現し、そのまま駅まで全力疾走で掛け続けた。福居は、自分の勝手な思い込みではあったが、勝利に酔った。その晩は〇クルトを3本一気飲みして、勝利をの喜びを噛み締めたのだったが...。

福居は東館の建物を出て、会社の前の道を歩いていた。早歩きの女性が福居の傍を通り抜けたので、2ヶ月前に全力疾走した時のことを思い出した。
<そうだ、あれからもう2ヶ月経ったんだ。あの頃は、ネクタイを締める必要がなかったし、上着も着ていなかったから、仕事が終わったらそのまま正面玄関から外に出ていたけれど、冬場になるとネクタイを締めて、上着を着替えないといけないから、東館の更衣室に行かなければならない。それでイニエスタ赤坂氏と出会わなくなったわけだが...おや、あの音は>
ザクッ、ザクッという音が聞こえたと思ったら、イニエスタ似の男性はあっという間に福居を抜き去り、30メートル前を歩いていた。イニエスタ似の男性は、腕を伸ばして振り子のように横に振って、楽しそうに歩いていた。会社の前の道は約100メートルあって、その後30メートルくらいのスロープに繋がり、左にカーブを描く堤防の上の道を300メートルほど行くと新京阪橋で安威川を渡ることができた。福居は少し足を速めて、堤防まで上がったが、その男性の姿はなかった。
「あんたも、あのサッカー選手に似たにいちゃんの挑発に反応したんやな」
「ああ、これは、総務課のいちびりさんではないですか」
「福居さんが2ヶ月前にあの男の前を喘ぎながら走っとるのを見とったんや」
「そうなんですか。ちょっと恥ずかしい気がします」
「いやいや、わしはあんたのそのけったいな闘争心というのは理解できるよ。関西人はおちょくられたら、それに過敏に反応する。まあ、これは関西人の性(*´з`)もんや」
「そんな、大袈裟な。でもあんな猛スピードで大きな音を立ててすぐ横を通り過ぎたら、普通の人でもちょっと腹が立つんじゃないでしょうか」
「あんたの気持ちはようわかるけど、今、猛スピード(*´з`)たけど、どのくらいの速さかわかっとるか」
「さあ、普通、人が歩く速さは15分で1キロで、時速4キロと言われていますから、その倍だとすると、時速8キロくらいですか」
「そうや、そんなもんなんやが、あの男の凄いところは、いろんな工夫をして、何倍もの速さで歩く、いや走行することができるんや。わしも何回か実際に見たことがあるんやが、ほんま、腰を抜かすほどの速さや」
「へえ、今でも早いのにその何倍もの速さなんですか。100メートルを10秒で走るとしたら、時速36キロということになりますが、どんな工夫をしてどのくらいの速さで走行されるのですか」
「よし、あんたが詳細を知りたい(*´з`)んやったら、教えたるでぇ。まずポイントはあの腕を伸ばして振り子のように楽しそうに振るところにある」
「???」
「あれは円の三分の一しか描いとらん。それを円が描けるように腕を上げて前に振り下ろすようにしたんや。ちょうど水泳のバタフライの腕の振りみたいに。ほんで腕をぐるっと一回転できるようになって、3倍の速さが出せるようになったんや」
「三分の一回転が一回転になって三倍の速さが実現したのか。理にかなっているようですが、大リーグボール2号がなぜ消えるかの解説みたいですね。ほんまかな」
「ほんまや、ほんま。さらにあいつは研究を重ねてさらに早くなりよった」
「へえー、どうやってですか」
「両腕を同じ速さで回しているより、足を出すのと同時に回転させるようにして交互に右左順番に振り下ろせば、さらに2倍の速さで走れるようになったんや」
「そ、それなら、児童公園で5才くらいの男の子が同じことをしているのをよく見ます」
「そうや、これはほんまにほんまに理にかなったことなんやで。そやからあいつが最大限の走りを見せたら、時速8キロかける3かける2やから...えーと、時速48キロやな」
「それだったら、100メートルを7.5秒で走れるということになりますから、ウサイン・ボルトより早いということになりますね」
「そうや、カール・ルイスや桐生選手より早いんやで」
「すごいですね。そんな人に私が勝てるんでしょうか」
「そらあんたの熱意次第や。水滴も千年岩に落ちたら、穴を穿つ(*´з`)やないか。あんたの努力次第なんやで」
「千年は困りますが、アドバイスをいただけたら、頑張りますよ」
「そうか、ほたら、あしたから、年末年始の休みに入るから、あんたは寝るのを惜しんで毎日腿上げをするんや。そうやなー、朝昼晩のごはんを除いて一日20時間しなはれ」
「わかりました。明日から5日間頑張ります」