プチ小説「青春の光10」
「橋本さん...」
「今は忙しいから駄目だ」
「でも今日は卑猥なネタや品のないネタではありません」
「よしそれなら聞こう」
「今日は、「30人の女性と待ち合わせる男性の謎」というタイトルのお話です」
「随分、羨ましい話だが...」
「失敗続きのB君でしたが、同じ会社に好きな女性S子ができました。でも、なかなか自分の意志を伝えることが
できませんでした。ある時、少し二人だけになる時間ができ、駅前の喫茶店で1週間後に会う
ことに同意を得ることができました。B君はS子の職場の他の人にさとられないようにしていましたが、
ついに待ちに待ったその日がやって来ました。仕事を終え、午後6時30分になるのを待って
退社しましたが、なぜかB君が帰るまでにS子の職場の人たちが全部帰ってしまっていました。B君は天にも登る
気持ちで時にはスキップをしながら、約束した喫茶店に向かいました。初夏で少し暑い日でしたので、
入口の扉は閉まっていましたが、B君は「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」をたどたどしい口笛で
吹きながら扉を開きました。すると30数席あるほとんどの椅子にS子の職場のおばさんたちが腰掛けて
いました。しかもおばさんたちはみんな白いチューリップハットをかぶり黄色のTシャツを着ていました。
B君はあんぐりと口を開けて、しばらく塞がることはありませんでした。少し落ち着いたので、
手前の方に腰掛けていたS子に声を掛けました。「どうしたの、こ、これは」「実は、喫茶店で
待ち合わせると言われたのは初めてだったんで、職場の人に相談したところ、Bさんには日頃から
お世話になっているので、職場の人全員で応援することにしましょうということになったのよ、
うれしい?」「そ、そりゃー、君がこういうのが好きだったら、僕としては何もいうことはないけど」
B君の目は少し潤んでいましたが、「頑張ってーっ」と言われたので、みんなに礼を言って一人で帰って行きました」
「うーん、余り笑えない話だな。人の不幸を喜んでいるようで、ところで、その後、B君はどうなるんだろう」
「それはー、フィクションなので、これで終わりですが...」
「それでは、少しかわいそうだから、B君の幸福な面を見せてくれ。その時に点数を付けて上げよう。
もう一度喫茶店で待ち合わせて...」
「......」