プチ小説「願いが叶うよう、まずは願いを言っておこう」

福居が仕事を終えて帰途に着いていると、同僚のいちびり氏が声を掛けて来た。
「お疲れさん、今日は早いお帰りで...」
「そうですね、ぼくの場合、仕事がなければすぐに帰りますね」
「でも、帰ってなんかあるの」
「いえ、ありません。ウィークデーは規則正しい生活をして、週末、ちょっと旅行をしたりするという感じですかね」
「平日あんたはなんにもしないんか」
「月に3回火曜日にクラリネットのレッスンに通っていましたが、今はコロナ禍で行けません。コロナ禍と言えば、東京の名曲喫茶ヴィオロンで開催していたLPレコードコンサートも昨年3月に中止になって以来、開催していません」
「えらい禁欲的な生活をしとるんやな」
「そうですね、今はみんな我慢しているんだから、仕方がないんじゃないですか。緊急事態宣言が先日解除になったので、昨日は京都へ行ってきました」
「そやけど、あんたは再雇用やし、元気であちこち行ける時間もこれから先限られているんとちゃう」
二人がスロープを登り切って、左手を見ると阪急電車の通勤快速が陸橋を渡って京都方面に走って行った。
「そうですね、ぼくの場合、車に乗らないから、JRなんかの電車を使って遠出する旅になるんですが、いくつか叶えたいことがあるんです。案外、ぼくがこうしたいと考えると実現するので、計画を10ばかり披露していいですか」
「えらいようけあるんやな。まあ、ええわ。そやけど相川駅でお別れやから。それまでに言うんやで」
「じゃあ、まずは、星の国大塔コスミックパークで銀河の写真を撮ることですね。これはケンコースカイメモを持ち込んでガイド撮影するつもりです」
「で次は」
「何か所か夜景を撮りたいところがあります。最低でも、函館と小倉の夜景は撮りたいと考えています」
「あんまり仰山言うてもしゃーないから、いまで3つとすると次はなんや」
「自著を公立図書館に受け入れてもらうために四国にも行ったのですが、その時に特急電車を乗り継いで2日間で四国一周をしました。またこの「48時間四国一周」をしたいのです」
「ほやけど、あんたは四万十川鉄道の普通電車に乗ったんと違うんか」
「そうでした四万十くろしおライン(土佐くろしお鉄道)は普通電車でした。それから本州から高松まで行ったのもマリンライナーでした」
「そうやで、高松から徳島と松山から大阪に帰る時に特急を利用したにすぎん」
「わかりました。次はやはりまだ行ったことがなくて、是非行ってみたいというところを上げてみたいと思います」
「外国か」
「いえ、外国は行かないと思います。でも離島には行きたいです。小笠原諸島の父島。片道船で24時間かかるということですし、できたら母島にも行きたいですから、勤めている間は無理ですね。奄美大島にも行ってみたいですね」
「他はどうやの」
「本州では、弘前市、八戸市、盛岡市、甲府市なんかに行ってみたいですね」
「そうかそれで10になるな」
「いえいえ、弘前市、八戸市、盛岡市は1回で回りたいので、あと2つあります。弘前市は弘前城で花見をしたいので、その頃に行きたいです」
「ほんで、あとふたつはなんやねん」
「以前、山登りをしていたのでもう一度身体を鍛えて、大雪山に行けたらなあと」
「しっかり鍛えてからやないと行ったらあかんでぇぇ。最後はなんや」
「以前から大山に興味があるので、行ってみたいと思っています」
「まあ、夢を持つのはええことやけど、1.大塔コスミックパーク 2.函館夜景撮影 3.小倉夜景撮影 4.四国一周 5.小笠原諸島父島 6.奄美大島 7.東北北部 8.甲府市 9.大雪山 10.大山のうち、5と6と9は長期の休みが必要やから引退してからちゅーことになるな」
「そうですね。東北北部も青森市、秋田市、仙台市、山形市、酒田市などにも行ってみたいので、5日間では無理ですね。退職したらすぐに出掛けたいと思っています」
「そうやなー、楽しみを描いてみるのもええことや。ほやけど絵に描いた餅にならんように」
「そうですね。ぼくとしては100パーセント達成したいと思っています」