プチ小説「サン=サーンス好きの方に(仮題)完結編」
石橋は一大決心をしてから受験勉強に励んだので何とか関西の有名私大の法学部に入学でき、4年間で無事に卒業して、一般企業に就職できた。就職して5年経過して、少し心とお金にゆとりができたので、ステレオを購入することにした。サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」を聴いたことが受験勉強に力を入れることに繋がったので、石橋はサン=サーンスの曲をもっと聴きたいと思っていた。休みの日に自分の部屋でクラシックのレコードのガイドブックを見ながら、石橋は呟いた。
「ステレオは今流行のケンウッドのコンポロキシーを購入することにするが、この際、少しサン=サーンスのレコードやCDも購入することにしよう。何かの参考になるだろうと、クラシックCDカタログ’88(後期)(音楽之友社)、クラシック・レコードブックVol.6オペラ&声楽編(音楽之友社)、FMfanコレクション オーケストラの本(共同通信社)、FMfanコレクション ピアノの本(共同通信社)を本棚から取り出したが、サン=サーンスのレコードはどんなのがあるかな」
石橋がレコードやCDが購入したくなったら、真っ先に見るのは、クラシックCDカタログ’88(後期)だった。何度も見たので、表紙のページは千切れていた。
「この本は、交響曲、管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、器楽曲、オペラ、声楽曲、音楽史、現代曲に分けられていて、アルファベット順に作曲家が並べられている。えーと、サン=サーンスの協奏曲はどんなのがあるかなー。やっぱり、サン=サーンスの協奏曲と言えば、ヴァイオリン協奏曲第3番で、これはフランチェスカッティがミトロプーロス指揮ニューヨーク・フィルと共演したものが定番と言われているから今度買うことにしよう。他にピアノ協奏曲とチェロ協奏曲が必聴とされているがどうなんだろう。ピアノ協奏曲は5曲あって、ルビンシュタインがオーマンディと共演している第2番が有名だが、第4番をカサドシュが演奏しているから聴いてみたい気がするなぁ。カサドシュのモーツァルトのピアノ協奏曲第24番は本当に心に沁みる名演なんだ。それからフランチェスカッティと共演したベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタも心地よかった」
石橋は次にピアノの本を取り出した。
「メモリーズ30というページを見ると、ドビュッシーやラヴェルもいいと書かれてあるから、いつかカサドシュのレコードを聴いてみたいな。この本を見るとチッコリーニとボードが共演したサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」もあるぞ。でも「エジプト風」ってどんなんだろう、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番が「トルコ風」でなんとなくトルコの雰囲気が醸し出されているけれどそんなんかな」
次に石橋はオーケストラの本を手に取った。
「サン=サーンスと言えば、やっぱり交響曲第3番「オルガン付き」だけど、ミュンシュを購入した後に、テラークから出ている、オーマンディ指揮の「オルガン付き」を購入した。テラークはクンツェルのチャイコフスキーの大序曲1982に大砲の音をリアルに入れたので有名なんだが、オーマンディのレコードもよかったな。ここにマルティノン、メータ、アンセルメ、デ・ワールトのレコードが紹介されているからいつか聴いてみたいな。クリュイタンスのレコードはあるのかな」
最後に石橋は、クラシック・レコードブックVol.6オペラ&声楽編を手に取った。
「今のところ、オペラをじっくり聴いている時間はないけど、サヴァリッシュ指揮のワーグナー「タンホイザー」やスイトナー指揮のモーツァルト「魔笛」は時間があれば聴いている。そんな魅力的なレコードが、サン=サーンスのレコードでも見つかるかもしれない」
石橋は、他にクラシックCDカタログ’88も見ていたが、溜息をついて言った。
「やっぱり「サムソンとダリラ」くらいしかないか。そうだ、「動物の謝肉祭」もサン=サーンスの曲だった。プレートルやプレヴィン指揮があるから、お金の余裕ができたら買おうかな。まあ、CDのガイドブックを見出したら、僕の場合、時間が気にならなくなる。気が付けば1時間経過したというのはざらなんだ。いわばクラシック温泉にどっぷりつかって、いい気持ちになっていると表現できる。まあやめられない快楽というのかな」
しばらくすると玄関の呼び鈴が鳴った。母親が帰ってきたようだった。