プチ小説「ムソルグスキー好きの方に(仮題)完結編」
小川が川越と「展覧会の絵」の話をして1週間して学食で小川が一人で昼食を食べていると、川越がうどんを盆に乗せて小川のところへやって来た。
か「一緒に食事していいかな」
お「やあ、川越さん、僕も君にホロヴィッツがいいと言ったから、どう思ったか気になってたんだ」
か「僕は、近くのレンタルレコード店で見つけてさっそく聴いたんだけれど...凄かったね。最後のところが」
お「そうだろ。僕も長年クラシックのピアノ音楽を聴いているけど、特に刺激的なのは好きだけど、あの演奏に比肩するのは、リヒテルのベートーヴェン「熱情」くらいかなぁ」
か「僕も長いこと音楽を聴いてきたけど、ピアノの鍵盤を打楽器みたいに強く叩くのは珍しいね」
お「ショパン、モーツァルト、ベートーヴェンであれをやったら、顰蹙ものだけど、アーシーなムソルグスキーだから許される気がするね。ホロヴィッツのシューマン「子供の情景」が好きなのでよく聴くけど、あんな弾き方はしない」
か「小川さんは教えてくれたので、珍しい演奏を聴くことだ出来た。ありがとう。それで他にも聴きたいのがあるんだけど...」
お「いいよ、知っていることを教えるよ」
か「実は、僕は弦楽器のピチカートとか超絶技巧の曲が大好きで、パガニーニのモーゼ幻想曲なんか、大好物と言える。そんな名演奏が聴けるのがないかなあ」
お「僕は、ルジェ―ロ・リッチのパガニーニ 24のカプリースがいい演奏だと思ったので、他の超絶技巧曲がないかなと思っていたら、モーゼ幻想曲が入ったレコードを見つけた」
か「あの「クレモナの栄光」のリッチかい」
お「そう、それからクレーメルのレコードも超絶技巧のをいくつか聴いたことがある。クレーメルはいろんな人といろんな曲をレコードに残しているから、彼が若い頃のレコードの中に、君がお目当てのものも見つかるかもしれない」
か「エルマンはどうかなあ」
お「彼は独特の音を出すのでエルマントーンと言われてそのレコードが珍重されたが、小品も超絶技巧を駆使しているとは言えない。なんなら、ツィゴイネルワイゼンを一度聴いてみるといい。ツィゴイネルワイゼンと言えば、ハイフェッツが思い浮かぶが、彼が、パガニーニのカプリース第24番以外の奇想曲を録音したとかモーゼ幻想曲を録音したというのは知らないなあ」
か「無名だけど、素晴しいヴァイオリンの技巧が聴けるレコードというのはないのかなあ」
お「ないだろうなあ。というのは、やっぱりクラシック音楽というのは、ゆったりとした気分でたゆたう音楽に身を任せるというのがいいんで、5分程で1曲が終わってしまう超絶技巧の曲が6曲ほど並んでいるのを静聴するというのが果たして音楽を楽しむというのに当たるかということなんだ。たまに聴くのはいいのかもしれない。でも仕事に励んで帰って来て、疲れた心と体を癒してくれるのは、ヴァイオリン協奏曲やヴァイオリン・ソナタで、超絶技巧作品集ではないと思うよ。僕もたまにパガニーニを聴くけれど、パールマンやリッチそれから最近ではミンツの24のカプリースを全曲通して聴こうとは思わないからね」
か「でも「クレモナの栄光」はよく聴くんでしょ」
お「美しいメロディに溢れているからね。あれは超絶技巧のヴァイオリンのレコードではないよ。美しいメロディを音色が素晴しいヴァイオリンで録音したレコードと考えるといい。「クレモナの栄光」なら、仕事で疲れた後に聴いてもいい。無いものねだりを言っていいのなら、オイストラフが小品集のアルバムで残してくれていたらなあと思う」
か「でも、いくつかのレコードのいいところ取りをして、グルックの「精霊の踊り」やラフマニノフの「ヴォカリーズ」それからブラームスのハンガリー舞曲第5番なんかが入っているレコードがあるんでしょう」
お「そうだよ、だから僕もだいぶ遅くなったけれど、今度そのレコードを聴いてみようと思うんだ」