プチ小説「青春の光11」

「田中君、おはよう」
「......」
「どうしたんだ、元気がないなぁ。何か悩みがあるのかな」
「いえ、別に。ただ、あることがネックになって、新しい創作ができなくなっているんです」
「そうか、B君を幸せにしてくれ、しかも決められたシチュエーションの中でと課題を出したことだな」
「そうなんです。あれからずっと考えるんですが......。例えば、A君にお願いして、何か神懸かり的なことを
 してもらっておばさんたち全部をB君の味方にするだとか、あるいは衝撃波で吹き飛ばしてしまうとか」
「おやおや、乱暴なことはいかんよ。そうか、よし、わかった。こんなことで、君の創作意欲を枯渇させては
 ならない。新しいネタがあれば聞こうじゃないか」
「待ってました。それでは、今日は「消えた魔球の謎」という話です」
「何となしに、オチがわかるなぁ。A君の衝撃波でB君の投げる球が消滅するという話じゃないの」
「まあ、聞いて下さい。A君は演芸で衝撃波を使うような危険なことは諦め、もっと地道なことを続けて人ができない
 ことができるようになれないのかと考えてみました。そこで、自分の投げた球を消すという演芸を忘年会で披露
 しようと考えました。橋本さんは、「アルキメデスと亀」の話を知っていますか」
「それなら、聞いたことがある。常に亀が先に行くので、アルキメデスはいつまでたっても亀に追いつけない」
「よくご存知で、それと同様に、A君は球を投げ追いついてそれを懐に入れただけでは、ただ球を隠しただけになって
 しまうので、投げるとすぐに「あ、UFO」とか言って周りの人の視線を別のところに向けさせておいて先に球に追いつけば、
 自分の懐に球を入れた時点では他の人の視線は球の軌跡を追うことが出来ず、消えたように見えるわけです。理論的には
 可能なことなので、A君は毎朝5時に起きて100メートルダッシュを50本、会社に行く前にすることにしました。
 おかげでA君は100メートルを7秒台で走れるようになり、余裕を持って消えた魔球の演芸をすることが出来るようになった
 のですが、忘年会を前に陸上選手にならないかとの誘いがかかり、その演芸を披露することなく、つまり魔球の話は立ち消えて
 忘年会を前にして、A君は陸上選手となったのでした」
「ちょっと強引なところもあるが、優秀な作品だ。90点を上げよう。前の作品も80点上げよう。これからも精進するように」
「ありがとうございます」