プチ小説「ヴィヴァルディ好きの方に(仮題)完結編」
松川と松山は天神駅で待ち合わせて、元祖長浜屋へと向かった。松山はあたかも松川が旧知の人であるかのように話掛けた。
「君の家族は元気にしているの」
「父親は病院通いで大変ですが、母親は元気にしています。週末には、2人に僕が料理したものを食べてもらっているんですよ」
「カレーライス、ミートスパゲッティ、焼きそばとかかな。醤油味の焼うどんは大好きだから、食べたいな」
「いいえ、僕は野菜の旨さが際立つような料理が好きなんです」
「というと、どんな料理かな」
「肉じゃが、豚汁、ハンバーグ、肉豆腐、ホウレンソウとベーコン炒め、野菜カレー、チンジャオロース、八宝菜、クリームシチュー、ビーフシチュー、キャベツとベーコンのコンソメスープ、麻婆豆腐、チンゲン菜と...」
「ふうん、いろいろ作るんだね。でも、麻婆豆腐は、〇美屋の麻婆豆腐の素に切った豆腐とネギを入れるだけのような気がする」
「そうですね。でも、九条ネギを使ったり、名店の豆腐を使ったりすると格段に味が良くなって」
「そうだなー、インスタントの長浜ラーメンもそこそこイケるけど、やっぱりお店で厳選された食材のラーメンを食べる方がうまいよね」
「両親も喜んで食べてくれるので、毎週土曜日が楽しみなんです」
「そうか、それで君は土曜日より日曜日がいいって言ったんだ」
「そうです。で、そろそろヴィヴァルディの話をしませんか」
「それでは、まず松川君に尋ねるけど、ヴィターリという作曲家を知っているかい」
「確か、ヴィヴァルディが活躍した頃のヴァイオリニスト兼作曲家で、「シャコンヌ」という曲が有名ですね。一時、エルマンの演奏に嵌っていました」
「うちにはオイストラフのレコードがあるんだが、要はヴィルトゥオーゾのヴァイオリニストが愛奏する曲なんだ」
「ええ、この曲は美しく、感情込めて演奏し甲斐がある曲ですよね」
「ここでヴィヴァルディに戻るんだが、イタリアはクレモナを初めヴァイオリン製造の工房があちこちにあって、ヴァイオリン造りが盛んだ。だから演奏する曲の需要もある。それでイタリアの音楽はヴァイオリンの曲が多い。イタリアでは多分日本よりずっと多くの人がヴァイオリンの音楽に親しみ、身近なんだ」
「そうか、それでヴィヴァルディも需要が多い、ヴァイオリンの曲をたくさん作曲したと考えられますね」
「多分、われわれにはわからない特殊技巧なんかも盛り込まれているんだろうけど、それを解説できる人がいないからどれも同じに聞こえる。メロディが美しい『四季』や『調和の霊感』なんかが楽しんで聞けるだけということになる。でも、実際には、ヴィヴァルディはヴァイオリン以外の協奏曲をたくさん作曲しているし、室内楽、オペラ、宗教曲も作曲している。「グローリア」という宗教曲は一聴の価値があると聴くが、残念ながらまだ聴いていない」
「そうなんですか。「グローリア」を一度聴いてみます。きっとヴァイオリンの美しい合奏がそこここに挿入されていて、美しいでしょうね」
「さあ、元祖長浜屋に着いたぞ。この後、店に寄ってくれたら、「四季」のレコードを渡すよ。ほんとにシルバーロゴでなくてもいいの」
「松川さんのお声を聞けたので、元気が出ました。レコードは少しでも音が良ければ買おうと思っています。マロンラベルなら大丈夫でしょう」