プチ小説「リムスキー=コルサコフ好きの方に(仮題)完結編」
小川は久しぶりに関西へ出張することになり、大学時代の親友井上と会うことにした。コロナ禍があるので、京都駅前の喫茶店で1時間ほど話をするだけにした。井上が喫茶店で待っていると10分ほどして小川がやってきた。
「それにしても、大変なことになっているね」
「そうだね、お互いいろいろやりたいのに我慢している感じだね」
「小川さんは、今日このあとどうするの」
「こういう時期だから、やっぱりすぐに帰らないといけない。でもこうしてマスクをしていれば、喫茶店で1時間くらいなら大丈夫だろう」
「そうだね、お酒を飲むわけにいかないし、感染対策はしっかりしないとね」
「ところで何か面白い。CDとかないかな」
「昨日、柳月堂で掛けてもらったけど、ゴールドストーンとクレモウのピアノ・デュオのCDは楽しい」
「どんな曲を演奏しているの」
「昨日、柳月堂で掛けてもらったのは、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」をピアノ2台で演奏するように編曲したものさ。いつも思うけど、柳月堂のオーディオ装置は凄い。ピアノの音が店の中を駆け巡っていたよ」
「そうなのか、僕もその場に居たかったよ。彼らの他のCDはないの」
「ドヴォルザークの新世界交響曲とメンデルスゾーンの交響曲「スコットランド」が1枚のディスクに入ったのとグリークのピアノ協奏曲と小品が入ったのがある」
「へえー、グリークのピアノ協奏曲かあ。もちろん一人が独奏の部分を弾いて、オーケストラのところをもう一人が演奏するんだろうな。2つの交響曲も僕が好きな曲だから興味津々だね」
「ほんとに楽しい演奏なんだ。彼らは他にも、ホルスト「惑星」、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」、未完成交響曲それからガーシュインとラヴェルの曲を2台のピアノで演奏したものがある。だけど残念ながら、彼らが評判になることはなかったみたいだ」
「井上さんもたまたま通信販売で見つけたんだろう」
「そう、「シェエラザード」はヒューバート・ロウズが取り上げているし、ギター編曲も見つけた。もしかしたらピアノ編曲もあるんじゃないかと思っていたら...」
「昔だったら、レコード店に置かれることもなかったろうね」
「うーん、そうかもしれない。有名な演奏家でないし、編曲ものはまず店頭には並べられないだろうね。でも楽しくて、しかも感動的なところもある演奏なんだ」
「もしかしたら、今の時代は、探せばいろいろな興味深い演奏に出会えるのかもしれないね」
「でも僕は「シェエラザード」なら、まずは、カラヤン、アンセルメ、ストコフスキーの名盤で素晴らしいオーケストラ演奏を聴いてから、いろんな編曲されたレコードを楽しむ方が...」
「もちろん作曲した人は自分が作曲した楽譜で演奏してほしいからね。ところで他には何か情報はないかな」
「コロナ禍でいろんなレコードを買ったけど、やっぱり雑誌に掲載された評論家の評価を読んで判断した方がいいみたいだ。レコード店やネットでの衝動買いはたまにはいいのがあるけど、はずれも結構ある」
「そうだよね、自分を過信するのをほどほどにしないと無駄遣いで大金を失ってしまうかな」
「そうそう、素人はほどほどにしないと」