プチ小説「メンデルスゾーン好きの方に(仮題)完結編」
大宮と千代子は、いつものように土曜日の午後に賀茂川べりを歩いていた。彼らが散策の際にいつも交わすのはクラシック音楽のとりとめのない話だった。
「ねえ、この前、やっぱり、ステレオを家に置くのは難しいっていったけど、あれからいろいろと考えたの」
「へー、家のどこかにステレオを置くところがあると言うのかい」
「そうよ、家は六畳と四畳半の二間だけど、六畳間は炬燵を、夏はテーブル、冬は炬燵にしていて、夜は寝室にしているわ」
「その通りだけど」
「ここは他にテレビ、固定電話、それからフランス人形が置かれてあって、衣装ケース、箪笥なんかがあるから、ぎゅうぎゅう感があるわね」
「そうだね、ちょっと他の家具を入れるのは無理かな」
「それで四畳半の方だけど、こちらは、大型テレビ、応接セット、本棚、それからスチール机があるわね。テレビが二つはいらないんじゃない」
「僕は小さい頃から、食卓にテレビは付き物だったから、あった方がいいと思ったんだけど」
「テレビを処分してから、スチール机を小さくして、フランス人形さんと固定電話をそこに異動させれば、それをのせていた棚が片付けられるわ」
「でも、持ち帰り残業があったら、どうするの」
「それは、六畳間のテーブルを利用するか。フランス人形さんと固定電話を応接セットのテーブルに置けばいいのよ」
「なるほどなあ、棚が片付けられるとステレオが置けるかもしれない。でもテレビと持ち帰り残業をどうするかだ」
「スチール机は押入れに入るから、片付けるのは簡単よ。1万円出せば、それより一回り小さいテーブルを購入することもできるわ」
「そうだ、いいことを思いついた。君のおばさんがフランス人形を欲しがっていたじゃないか。おばさんにあげたら」
「駄目よ、フランス人形さんは小さい頃から私の大切なお友達だったんだから、三畳一間のワンルームマンションに移っても持って行くわ」
「そうか、それじゃあ、まずは空きスペースがどのくらいあるのか測ってみるか。やっぱり三角形の頂点に人がいるというのが肝心だよね」
「いいえ、いい音が家で聴けるのが大切だから、スピーカーの形状や置く場所は問わないわ。〇ーズのスピーカーや円筒形のスピーカーでもコストパフォーマンスが良かったら購入してもいいけど...でもスピーカーはあの形がいいかなぁ。スペースがなければ、少し離れたところに置いてもいいわよ」
それじゃあひとつは寝かせて、箪笥の上に置こうか」
「スピーカーコードを長めにしないと無理だわ」
「ははは、それも電気屋さんに言わないといけないね。僕はアンプ(チューナーが付いているレシーバーがいいけど)とCDが分かれていて、左右のスピーカーと言うのであれば、いちおうステレオと呼んでいいと思うんだ。ラジカセに毛が生えたようなものだけど、そこから始めてもいいんじゃないかな」
「私、何だっていいわ。今から見に行きましょうよ」
「そうだね」