プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生37」

秋子の祖父が演歌を歌って結婚式を盛り上げている時に、小川は秋子に話し掛けた。
「アユミさんに申し訳ないことをしてしまった。式が終わってからもう一度謝ろう」
「そうね。アユミさん、小川さんのこと好きだから、結婚式を思い出深いものにしようと
 一所懸命練習していたのよ。私からもよく言っておくけれど、結婚式が終わってみんなと
 お別れする時にもう一度謝ってね。それと今日はディケンズ先生とのお話はもうしないと
 約束してね」

結婚式を終えて、上野駅には何人かの有志が見送りに来た。その中にアユミ夫婦もいた。
アユミは二度小川から謝罪をしてもらって、機嫌を直していた。
「小川さんのために一所懸命練習したのに、居眠りなんかして。でも、考えようで、あんな
 緊張するところで眠りに誘うことができるほど安らぎに満ちた演奏だったとの解釈もできる
 わけで、もしかしたら最高の賛辞を身体で表現してくれたのかもしれないわね」
「ほんとにごめんなさい。機会があったら、今度はじっくりアユミさんの演奏を聞かせて
 もらうから。それから、秋子さんの最高のパートナーとしても頑張ってほしいんだけれど」
「残念だけれど、それはお受けできないわ...」
「......」
「だって最高のパートナーは、小川さん、あなたがなってあげないと」
「そうか、そうだったな、ははは」
「秋子も私も小川さんがハンサムでやさしいからついて行こうと思うけれど、今日みたいに
 脱線したら、秋子はただ笑っているだけだろうけれど、私は...、許さないと思う」
「......」
「まあまあ、ここは二人の門出を祝って上げようじゃないか」
そうアユミのことを一番理解している男性が言ったのを機に、二人は新幹線に乗り込んだ。

「小川さん、もしかしたら眠らないでと言ったから、そんなにたくさんコーヒーを飲んで、
 眠るのを我慢しているのかもしれないけれど、仙台までゆっくりしていいわよ」
「そうか、それじゃー。......。グーグーグー」

眠りにつくとすぐに、ディケンズ先生は現れた。
「アユミさんと仲直りができて、私もほっとしたよ。彼女はしばしば重要な役割を果たして
 もらうが、決して甘いものではなく、本当に今日のようなことが山ほど起るから楽しみに
 していてくれ」
「そ、そんな...」