プチ小説「座談会『こんにちは、ディケンズ先生』第2巻について考える」
「それでは、今回は『こんにちは、ディケンズ先生』第2巻について話し合うのですが、鼻田さん、何かありますか」
「オウ ブエノスディアス テンゴ ムチョ フリオ」
「そうですね、最近めっきり寒くなりました。寒冷地で零度を下回ったという話を聞きます」
「そうやでー、コロナも完全に終息したわけやあらへんから、健康には充分に注意してなー。ほんでなー、第2巻についてやが、わしはいろんなところが気に入っとるんやでー。まずは、ディケンズの中でも読まれる機会が多い、『二都物語』『大いなる遺産』『クリスマス・キャロル』について解説しとることや。それから二人の娘さん、深美(みみ)と桃香が大活躍するわけやけど、二人の会話にリアリティがあって興味深いんや」
「そうですね、わたしもこの二人の会話は姪っ子姉妹の会話なんかを参考にしました。それで少しは血が通った会話になっているのかなと思います」
「それから、相川さんというある意味偉大な人物との出会いがあるんやが、小川が図書館でディケンズの本を探していて出会うというのも船場はんらしいわ」
「いろいろお褒めいただいてありがとうございます。わたしは第1巻は登場人物を読者に身近なものにと考えて書き上げましたが、第2巻以降もそれぞれこれを一番にやってみたいと考えて書き上げました」
「全体に流れているのが、ディケンズの小説をみんなに知ってもらう、主人公の成長を描くというのが、『こんにちは、ディケンズ先生』の根幹にあるようですが、それでは第2巻でやってみたかったことは何ですか」
「それは、ひとつの小説の中で、別の小説を展開させてそれもどきどきはらはらさせるものにするというものです。これは、もちろん相川さんが小説の持論「面白い小説ってどんなんだろう」を展開した後、講義内容に関連した小説を読み上げますが、その小説が小説の中の小説です。ディケンズも『ピクウィック・クラブ』の中でこうした手法をやっていて、わたしも是非やってみたいと思ったのです。この手法は、第3巻、第4巻でさらに小川が相川に添削してもらう小説というのも加わり、3つの小説が同時進行するというようなそれこそアクロバティックことをしているのです」
「そうか、船場の小説はサーカスみたいな小説なんやな」
「というか、ディケンズの小説はいろんな場面、興味溢れる登場人物の興味深い会話で読者を引き付けるわけですから、わたしも疑似的にいろんな場面といろんな登場人物を組み合わせて読者に興味を持ってもらおうと考えたのです。そうなると小川が主人公のストーリーだけでは足りないので、石山が主人公の話(相川の小説)とはじめくんが主人公の話(小川の小説)も加えました」
「わけがわからなくなると考えへんかったんか」
「まあ、そのあたりのことは、小川が書いた小説が出て来る第3巻のことなので次回お話しますが、こうしたことに備えてわたしは平易な言葉を使って、文章が重たくなるようなことは避けています。わけがわからなくならないよう、比重も軽くしています。割合としては、相川の小説が8パーセント、小川の小説が2パーセントくらいでしょうか」
「物語の後半は、深美が音楽留学するのかと石山の恋愛の行方との2つのストーリーが同時進行して読者に楽しんでいただこうと考えたのですが、なかなかその機会が...」
「まあ、本の売れ行きはしゃーないとして、他にこの本でアッピールしたいところはあるんかいな」
「やはり、相川さんが解説するイギリス文学一般の講義でしょうか。入門書をよりわかりやすく興味深いものにしたつもりです。あとは主人公小川より際立つ、石山の性格でしょうか。余り目立って、小川が霞んでしまってはいけないなと思いながらも、そうなってしまったら仕方ないかとも思っています」
「そんなに相川の小説や小川の小説に興味を持たせるのは、小川が中心の小説のネタが尽きたからなんか」
「いえいえ、第3巻以降は秋子がクラリネット・アンサンブルを結成して奮闘するだけでなく、2人の娘がそれぞれピアノ、ヴァイオリンの演奏家を志し、技術向上に励みますが、それにアユミさんが絡んで大変な騒ぎになりますが、そういったところは次回ということで」
「橋本さん、何か最後に一言」
「船場君は3つの小説を同時進行させたことを自分の手柄のように考えているが、やはりひとつのストーリーだけが展開する小説のような安定感には欠ける。そんなアイデアを思いついたのは、4つの本に何でもかんでも押し込んでしまおうという、船場君の貧乏根性のせいだと思う。ゆとりがないのは事実なのだけれど、仕方がないのかな」
「反省しています」