プチ小説「座談会『こんにちは、ディケンズ先生』第3巻について考える」

「さあ、いよいよ、第3巻についてご意見をいただくわけですか、まずいちびりさんからお願いしましょうか」
「ええよ、わしが第3巻でええなーと思うところが2つあって、ひとつは『ドンビー父子』のヒロインフローレンス・ドンビーと小川が対話するところや。例によって、ディケンズ先生が連れて来たんやけど、『ピクウィック・クラブ』の主人公サミュエル・ピクウィック氏なんかもディケンズ先生と一緒に船場の前に現れたりする。そうしてディケンズ先生と同じように小川の人生相談に乗ったりしよる。まあ、船場ならではのあほな発想というか、おもろい発想というか。それから、もうひとつは、船場が自分もアユミ・クインテットに入れてもらおう思うて、単身赴任していた時にクラリネットのレッスンに通ったちゅーとこやな。いつまで経っても蚊帳の外ちゅーのは主人公に酷やな―と思うていたところ、救いの手を差し伸べられたちゅーところかな」
「素晴らしいですね、いちびりさんが今言われたのが、第3巻でやってみたかったことなんです。つまり一つは、ディケンズ先生以外の他の人、ディケンズの小説の登場人物に出てもらって、小川と会話させようというものです。それからもうひとつは音楽です」
「音楽なんですか」
「そう、わたしがお世話になったものに、ディケンズの小説とクラシック音楽があります。ともに感謝の気持ちがあり、そのよさを知ってもらうために拙著を刊行しましたが、クラシック音楽も恩返しをしようと考え、クラシック音楽の楽しいところを少しでも知ってもらおうと考えました。1つ目は小川がクラリネットを習って上達すること、2つ目は深美と桃香が音楽家として成功すること、3つ目は秋子がクラリネット・アンサンブルを結成して公の場で演奏すること、この3つの話を展開させようと考えました」
「そやけど、そうなるとフローレンスやピクウィック氏が出て来るとは言え、ディケンズ先生と主人公小川が話す機会というのはめったになくなるんとちゃうん」
「そうですね、そこが難しいところです。『こんにちは、ディケンズ先生』というタイトルなのですから、石山が目立ちすぎたり、娘ふたりが一流の演奏家になって活躍するという風になったら、主人公やディケンズ先生が活躍する場がなくなってしまいます。手を広げすぎて、訳が分からなくなったり、最初に考えたストーリーから大きく逸脱するというのは回避したいところです。それで活躍してもらうことにしたのが、アユミさんでした。彼女が先生として娘ふたりに必要以上に干渉した時には、親として張り切ってアユミさんと死闘を繰り広げてもらおうと思ったのですが、185センチの筋肉隆々の女性と170センチほどの華奢な男性とではプロレスの階級としても大きな隔たりがあって、同じリングに立つのもどうかなと思います。それで二人が鉢合わせた時には異常な緊張感が漲るというだけにしていたのですが、第4巻ではそれが爆発します」
「それから秋子さんも第3巻ではクラリネット・アンサンブルを立ち上げたりして、目立つようになりますね。ぼくは秋子さんが好きなので、もっと登場の場を与えてほしいのですが」
「そう言えば、ディケンズの小説好きのイギリス人ベンジャミンさんも登場して、ホンマ賑やかなことや。この人について作者から紹介してほしいなぁ」
「そうでしたね、ベンジャミンさんが活躍するのも第3巻からでした。彼は相川さんの昔からの友人で、それまで小川と新幹線で出会うだけの人物だったのが、相川、小川だけでなく、小川の家族、大川夫妻とも親しくなり、音大の先生なので一緒に楽器演奏をしたりして親しくなっていきます。わたしは外国人から見た日本人というのをベンジャミンさんの意見として書いていますが、これは外国人が日本人のことをこのように思いやってほしいという願いを込めて書いています。それの集成したものが諸外国との親善のために役に立てばいいなと思っています」
「まあ、そんなたいそなことは言わんと、ベンジャミンさんが日本通のやさしいミュージシャンとして描くだけでええんとちゃう」
「それからベンジャミンさんは第4巻で桃香のヴァイオリンの先生となりますが、アユミさんとの間で諍いが生じて...」
「その前にも深美の留学についても騒動が持ち上がり、小川は苦しい立場に追い込まれる」
「わしが気に入らんのは、ディケンズ先生の指導で窮地を凌いできた小川が一人で重荷をしょい込むことになったことや」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ディケンズ先生、ピクウィック氏と秋子、友人からの箴言、協力を得て見事切り抜けていきます」
「そのあたりのことは、第4巻の内容になりますから、次回ゆっくりとご意見を伺うことにします」
「よろしくお願いします」