プチ小説「座談会『こんにちは、ディケンズ先生』第4巻について考える」

「それでは最後に第4巻について忌憚のないご意見をいただきます。後で言い忘れたことがあったと言わないように、思う存分胸のうちを明かしてください、橋本さん」
「それではわたしから話させてもらおうかな。まず内容に入る前に、第3巻、第4巻を一緒に出した背景などを船場君から言っといた方がいいんじゃないかな」
「そうですね、それじゃあ、ちょっとそれを説明しておきましょう。前にも話した通り、『こんにちは、ディケンズ先生』は50才を過ぎて何か後世に残しておきたいという思い付きから、自費出版したもので、たまたま適量の長編小説くらいの量の原稿があったから出版社に送ったもので、近代文藝社が原稿を査定するという新聞広告を出していなかったら、出版することはなかったでしょう。いろんな条件が重なって、たまたま出版社に査定してもらい。自費出版だが流通すると聞き、家族を説得して出版に漕ぎつけたというわけで、そのあたりの歯車ひとつが欠けていたら、きっと今は普通の老人になっていたでしょう。そういうことですから、何巻で終わりにするとか、結末をどうするということは考えていません。たまたま今から5年ほど前に300話書いて、これなら丁度4巻まで出せる量で、内容的にもまとまりがよいということで、小金が入ったらすぐに出版しようと考えていました。2019年6月に小金が入ったので、まず第2巻の改訂版を2019年の11月に、そして幻冬舎ルネッサンス新社の編集者の方に無理を聞いていただいて、2020年3月に第3巻と第4巻を同時に出版することができました。これはひとえにS氏のおかげで、ここで改めて御礼申し上げます。ところがさあ、これからという時にコロナ禍となり、それから1年半は何もできていないという状況ですが、これからもめげないで頑張ろうと思っています」
「そうやなあ、今までは悪夢やと思うて、これからは気持ちを切り替えて頑張らんとしゃーないんちゃう」
「ありがとうございます。そういうわけで、300話書いたから4巻刊行しようと思ったんで、この先のことはほとんど考えていません。お金ができたら、もう1冊と考えていますが、まだ5話しか書いていませんから、原稿を書くだけでも1年は掛るでしょう。まあ、第5巻の構想は次回にするとして、今回は第4巻についてお話したいと思います」
「前回のお話によると、第4巻は3つのストーリーが同時進行するということでしたが、他にこんなおもろいところがあるでというのがありましたら、仰ってください」
「前回お話ししましたように、第3巻と第4巻は好きなクラシック音楽のことを盛り込もうとして、ストーリーが複雑怪奇になってしまったことです。相川の小説、小川の小説の他に、いろんなストーリーが展開していきます。秋子がアンサンブルを結成して奮闘する話、深美が音楽留学を一時的に中断して日本の大学で英文学を勉強したいと小川に持ち掛ける話、桃香がヴァイオリンの演奏家を志しベンジャミンのレッスンを受けるがアユミが介入したので小川があることをクリアしたら手を引いてくれと持ち出す話、大川がオペラの作曲をしたいから小川に台本を書いてほしいと依頼する話、小川、相川、大川の3人がモーツァルトのケーゲルシュタット三重奏曲を演奏することになり、秋子、深美の助けを借りてクラリネットの演奏技術を向上させる話それからベンジャミンがアユミと一緒に演奏したいと打ち明ける話など第4巻で終結する話しない話がたくさんあります。わたしは以前友人から、小説というものは次の展開がどうなるのかという話があってこの次はどうなるのと読者に思わせるのが小説を書く人の腕の見せ所と説明を受けたことがあり、そういった話をいくつか並行して進めようと考えたのですが、それが十近くになると楽しみというよりわけがわからなくということになかなか気付かず、その友達にたくさんあるのも考えもんやと言われて、ハタと気付いたのでした」
「そやけど次が楽しみというのはあった方がええんとちゃう。いつまでも解決せーへんのとちゃうし」
「いえ、私の場合、なかなか解決しないので、ほとんどが第5巻以降も引きずるかたちになります。雪だるま式に追っていくストーリーが増えて、さらに難解になるかもしれません。そんなことがあって、別の小説をひとつ出版したいと考えているんですが、小川、秋子、大川、アユミ、相川、ベンジャミン、深美、桃香という自分が創作した登場人物を手放すというのがもったいない気がして、なかなか他の長編小説を自費出版してみようという気にはなれません。特に今は大学図書館の取り扱いがない(先生、生徒の対応で精一杯で、寄贈図書にまで手が回らないようです)ので、仮に無理して出版しても、寄贈するところがないのです。それに『こんにちは、ディケンズ先生』が学術書の取り扱いを受けているので、大学図書館での受け入れを考えてもらえますが、例えば、恋愛小説、ユーモア小説の場合には大学図書館の受け入れは難しいと思います。コロナ禍が過ぎ去り、以前と同じような日常が戻ってきたら、いろいろやってみたいことがありますが、第3巻と第4巻が大学図書館に受け入れられない間は第5巻の出版は考えられないと思います」
「そんなー、次回に第5巻のことについて考えることになっているのに、船場さんが、やらへんよと言ったのでは出来なくなってしまいます」
「そんなん気にすることないって、わしらがおもろいことゆうて、船場が実現不可能な夢を話したらこれくらいのスペースは埋まってしまうよ」
「それもそうですね。船場さんの小説も計画性がないのですから、われわれががむしゃらに働いても...」
「そら、しゃーないんとちゅっ、しゃーないんとちゃう」
「まあ、落ち着いて下さい。次回にそのあたりのことを説明しますので、少しお時間をください」