ベートーヴェン●ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調作品24「春」
ベートーヴェンの作品の中で、明るく馴染みやすい曲と言えば、この曲に尽きるだろう。ベートーヴェンが、なぜ
このような心をわくわくさせるような曲が書けたのか不思議でならない。ベートーヴェンの音楽は、苦難を突き抜
けて歓喜に至る曲やどこか陰影のある曲や激しい情熱を燃焼させる曲が多いが、この曲は極めて珍しいタイプの曲
と言える。第1楽章の有名な旋律は、春の息吹を感じさせるし、第2楽章のゆるやかな旋律は、春のものうい感じ
をうまく表現しているし、終楽章では、はずむ心をおさえつつも、そこまで来ている春を迎える様子を極めて明る
く描いている。愛聴盤は、グリュミオーとハスキルが共演したレコード。グリュミオーの明るく、繊細なヴァイオ
リンの音色は、この曲に似つかわしい。ハスキルのピアノも、軽やかで美しく、グリュミオーとの息もぴったりで
ある。ベートーヴェンは、生涯独身であったが、もしかしたら、この曲を作曲している頃に、愛する人がいて、人
生で最良の時が来たと感じたから、この曲が出来たのではないかと思わせる、そんな曲である。