ベートーヴェン●ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調作品47「クロイツェル」
ベートーヴェンは、10曲のヴァイオリン・ソナタを残しているが、規模、内容共に他の曲をしのいでいるのが、
この曲である。私は、この曲の他、第2番、第4番、第5番「春」が好きなので、それらを聴くことのできる全集
を3種類持っている。グリュミオー、ハスキル盤、オイストラフ、オボーリン盤、フランチェスカッティー、カサ
ドシュ盤であるが、「クロイツェル・ソナタ」の演奏では、オイストラフ、オボーリン盤が、標準的な演奏と言え
る。ただ、最近は、ハイフェッツがモイセビッチと共演したレコードに魅せられている。第1楽章のとてつもない
速さと、激しさは、聴く人の感情を激しく揺さぶる。また、ハイフェッツの正確で、繊細な演奏を聴くために終始、
緊張していることを強いられる。聴いた後には、白熱の生演奏を聴いた時に残る、緊張からの開放感と心地良い
虚脱感がある。ハイフェッツと言えば、ベートーヴェンやメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のレコードが思
い浮かぶが、私は、このレコードがハイフェッツらしくて、最も気に入っている。ハイフェッツは、SP時代やL
P初期に、ピアノとの共演で多くの名演を残しているが、その中には、このレコードのような熱演が数え切れない
くらいあるかもしれない。