ベートーヴェン●チェロ・ソナタ第1番へ長調作品5ー1
ベートーヴェン、26才の時の作品で、若々しい、ベートーヴェンの魅力に満ちた曲である。旋律、リズム、ハー
モニーは、全て躍動感があり、ピアノは美しく響き、チェロは渋く低音を奏でる。ベートーヴェンは、この6年後、
耳の病気が悪化し、「ハイリゲンシュタットの遺書」を書き、演奏家の活動を断念し、作曲に専念してゆく。作品
5ということからわかるとおり、初期の作品であるが、瑞々しさとよく練られたベートーヴェン独特の旋律の両
面を併せ持つ名曲である。最初、私は、カザルスとホルショフスキーが共演したものを聴いていたが、今は、カザ
ルスとゼルキンが共演したものを聴いている。カザルスの豪快なチェロとゼルキンの宝石をちりばめたようなきら
きらしたピアノは、この曲をいっそう魅力的なものにしている。ゼルキンは、地味な演奏をするピアニストで、彼
の名盤と言われる、ベートーヴェンの三大ソナタ集やゼルキン・オン・テレビジョンというLPで聴けるのは、落
ち着いた感じの内省的な演奏である。もし、ゼルキンの普段聴くことのできない、この美しいピアノの音がなかっ
たら、カザルスも引き立たなかっただろうし、名盤にもならなかっただろう。