チャイコフスキー●弦楽四重奏曲第1番ニ長調作品11
アンダンテ・カンタービレ(歩むようにゆっくりと、歌うように)はクライスラーの名演でよく知られているが、
この曲の第2楽章をヴァイオリンとピアノ演奏用に編曲したものである。アンダンテ・カンタービレのアンダンテ
は、アンダーレ(行く、歩む)という動詞の現在分詞で、形容詞化している。カンタービレは、カンターレ(歌う
)という動詞に可能、性質、適合を表わす形容詞語尾がついたもので形容詞である。このあとに「人生」を付ける
と、誰もがうらやむものとなる。誰でも日々の仕事にあくせくし、気持ちを高揚させてくれる歌も忘れがちである。
しかし、じっくりと人生を味わい、歌を口ずさみながら歩いてゆけたら、その人の一生はすばらしいものになる
にちがいない。人間、生きてゆくためには働かなければならず、マイペースで生きていると軋轢が生じることもし
ばしばである。毎日、歌ばかり歌っていられない。それでも、時にはゆっくりした歩調で、心の中で歌いながら歩
いてゆくことも必要なことだと思う。愛聴盤は、ボロディン四重奏団のレコード。少し線の細い弦楽器の音が寂寥
感をうまく醸し出している。