天気が良かったので槍に行って来ました
わたしことふくいえむは、「今年は槍、穂高に行かない」と一ヶ月余り前に言っておきながら、9月1日から3日にかけて槍ヶ岳登山に行って来ました。わたしが今年は行かないと公言したのには、長引く梅雨、アクセスの良い電車がなくなったことの他に2つの理由があったのでした。ひとつは4回目の槍、穂高登山で縁起があまりよくないこと。もうひとつは、トレーニングで比良山を登っている時に滑落したことがその理由です。わたしはどちらかというと非科学的なことをよく信じ、深刻に悩んだりします。その時の滑落は2メートル程滑り落ちたところで止まった(というか地面があった)のですが、これを仮に奥穂高岳から前穂高岳かけてある吊尾根と言われる絶壁でバランスを崩して滑落したと考えると命はまずありません。そんなことを考えていると、梅雨や電車のことは「行くな」と誰かが仄めか(サジェッション)してくれているのではないかなどと考えるようになったのです。それでも9月の初めに休みが取れ、天気が良さそうだということを知ると、穂高は止めといた方がよいが、槍ヶ岳に行って帰るだけなら、危険なところもないし行ってみるかと考えが変わりました。行って帰るだけのつもりが、天気が余りに良かったので氷河公園から天狗原に登り槍ヶ岳に向かうことになりましたが。
別掲のわたしの「槍ヶ岳写真集2006初秋」を見ていただくとお分かりになると思いますが、本当に9月2日は天気が良かった。快晴ではありませんが、前日の雨が大気にある水蒸気や不純なものを洗い流したようで、どこまでも大気が澄み渡り、その日は遠くにある富士山や白山がよく見えました。また今までの経験では午前6時前後に出発した時には快晴だったがお昼近くになると天候が悪くなり濡れ鼠になってその日の宿に到着したり、終日雨だったりするパターンが多かったのですが、この日は終日良い天気でした。以下、道程を追うことにします。
午前6時18分京都発ののぞみとしなの1号を乗り継いで松本に到着。松本電鉄の電車とバスを乗り継いで上高地に着いたのは午前11時を少し回っていました。バス停の近くの食堂で昼食を取り歩き始めたのが、午前11時30分頃。その日の宿となる槍沢ロッジに向けて歩き始めました。自宅を出た時はかなり強く雨が降っていましたが、大正池を過ぎたあたりから雨が小降りになり、食堂を出る頃には、傘などの雨具の必要はなくなりました。午後3時40分頃に槍沢ロッジに到着しました。その夜は播隆祭(19世紀の前半に始めて槍ヶ岳に登った播隆上人を偲ぶ催しで岐阜市にあるお寺からお坊さんが来られ、槍沢ロッジと槍岳山荘で催しが行われる)で一行が泊まられたため宿泊者が多く、少し休みが取りにくかったのですが、一般参加の方を交えて楽しい催しが行われたようでした。
翌朝午前6時頃、槍沢ロッジを出発しましたが、宿の前の広場から槍ヶ岳の鏃がよく見えました。前日の天気予報で天気が良くなると言っていたため、迷わず天狗原経由で迂回して槍ヶ岳に出ることにしました。槍ヶ岳と氷河公園(天狗原)の分岐点までは黙々と歩きましたが、分岐点を過ぎたところで群馬から来られた御夫婦にお会いし声を掛けられました。「今だったら、天狗池をひとりじめできる。天気もいいしいい写真がとれるよ」と言われました。またこの御夫婦は前日宿泊されたヒュッテ大槍が良かったことも話されていました。
天狗池には先客の方がおられましたが、おかげで写真を取っていただくことができました。その方は前日南岳小屋に宿泊され、天気が良かったので天狗池に下りて来たと言われていました。天狗池で写真を写したら、南岳小屋に戻り槍平経由で帰路につくとのことでした。最初の時は道が整備されていなかったこともあって、恐る恐る登った天狗原も4回目となるとかなり楽しんで登ることができました。穂高連峰だけでなく遠く富士山の眺めをゆっくり見ながら登ることができました。天狗原に着くと笠ヶ岳や白山を望むことができました。
水分補給のため南岳小屋に寄りましたが、今年は宿泊の予定でなかったので、少し休憩した後に槍ヶ岳へと向かいました。3年前の初めての時は雨の中消沈した気分で通った槍ヶ岳への道もこの日は明るく晴れて気持ちよく歩くことができました。「最初はだめでも、いつかこういう日が来るもんなんだな」なんて言いながら、足取りも軽く歩いていましたが、中岳の山頂へと向かう頃には険しい道となり緊張感を持って進んで行きました。
午後1時50分頃に槍岳山荘に到着しました。カメラと貴重品を小さなショルダーバッグに詰め替え、それを持って午後2時には槍ヶ岳の山頂を目指しました。下から見ると険しそうでしたが、登ってみるとそれほどでもなく20分程で山頂に着きました。山頂には十数名の方がおられましたが端に立つと恐怖感が出て来るためかまん中に集まっておられました。しばらくしてヘルメットをかぶった方が祠のうしろから現れ、「北鎌を登って来た」と言われました。その方は近くにいたおばさんに記念にしたいので写真を撮ってもらえないかと言われました。それからその場の雰囲気が変わり互いに写真を撮り合うようになり、わたしもそのおばさんに写真を写してもらいました。もちろん山頂からの景色は、申し分のないものでした。
その日の宿は今まで宿泊したことがない槍岳山荘にと決めていたのですが、播隆祭があり混みそうなことと前日ヒュッテ大槍を薦めて下さった方がおられたことから、ヒュッテ大槍で泊まることにしました。ヒュッテ大槍に決めた理由はもう一つあって、ご来光がよく見えそうだということからでした。実際、ゆったりできて、食事もおいしかった。その日は午後5時30分からの夕食後、疲れていたこともあり、午後6時にはベッドで横になっていました。
翌朝午前5時20分頃ご来光がありましたが、見晴らしが良い上に天気も良く最高のご来光を見ることができました。目黒から来られた御夫婦も何枚も写真を撮られていました。わたしもご来光がすばらしかったため6枚も撮ってしまったのですがそれでフィルムが尽きてしまいました。方向転換して小屋に入ろうとすると朝焼けに染まる槍ヶ岳が見えました。この間近で赤く染まる槍ヶ岳を撮影できなかったことが今回唯一の心残りですが、本当にすばらしい三日間でした。午後6時頃ヒュッテ大槍を出発し、午前11時40分に上高地に到着。昼食後、上高地午後0時40分発のバスで帰路につきました。帰りのバスの中では登山を25年されている野村さんと楽しい話しをしましたが、野村さんがいつも帰りに寄られるそばやが準備中で、食することができず残念でした。午後3時42分松本発のしなので帰阪しました。
今回は天候も良く、いろんな方(横尾から槍沢ロッジに向かう道でアメリカ人の方と片言でお話しをしました)とお会いし楽しい話しができて本当によかったと思います。山の空気は人の心を和らげたり暖かくするのか、ふだんは恐い顔をしていそうな人も終始笑顔を見せておられます。わたしはそんな山の空気が好きです。そしてその笑顔のもうひとつの理由が、これから雄大な自然を体験できるという期待感からなのか、すでにそれを体験したからなのかは、その方の顔が日に焼けているかどうかで判るような気がしました。