バッハ●カンタータ第140番「目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声」
同第147番「心と口と行いと生きざまもて」
バッハのカンタータで最も有名な曲、2曲である。第140番・第147番には、それぞれ「目覚めよと呼ぶ声す」
と「主よ、人の望みの喜びよ」という有名なコラールがある。この二つのコラールは、オルガン・ピアノ・ギター
等、様々な楽器で演奏され、なじみの深い曲であるが、2曲とも約30分演奏時間がかかり他はなじみのない旋
律なので、全曲通して聴くのは少ししんどいかもしれない。私もリヒター盤が退屈で面白くないと思っていたとこ
ろ、アーノンクール盤を聴いて、この曲全体がすばらしいと思うようになった。ソプラノのパートを歌っているテ
ルツ少年合唱団員のアラン・ベルギウス君が心をこめて歌っているところがいいのである。アレッド・ジョーンズ
も声変わりで天使の声が出せなくなったように、ベルギウス君もその後しばらくして成人男性の太い低い声になっ
ているのだろう。つまり、このレコードで聴くことのできるベルギウス君の声は貴重なもので、少年時代のみずみ
ずしい感性と大人のまねのできない子供らしい不安定さを持った声なのである。それは薄いガラス細工のようで、
美しいがすぐに壊れてしまいそうなものである。