シューベルト●歌曲集「白鳥の歌」D957
シューベルトの三大歌曲集の1つであるが、「美しき水車小屋の娘」と「冬の旅」が、ミューラーの詩による連作
歌曲集であるのに、「白鳥の歌」は3人の詩人の14(レルシュターブ7、ハイネ6、サイドル1)の詩に歌をつ
けている。白鳥の歌とは白鳥が死の間際に歌うといわれる歌で、作曲家の亡くなる直前の曲のことも言うが、シュ
ーベルトの遺作であるこの歌曲集のことを指すと考えるのが普通である。「冬の旅」も孤独を愛する人の暗い絶望
的な雰囲気が漂う曲が続くが、「白鳥の歌」でも一貫して、孤独を愛する人の内的な世界を描いている。明るく開
放的な世界に対し、暗く閉じた世界。現代社会はあまりに明るくなりすぎたために、暗闇が見られなくなった。明
かりが未来を照らし突き進むための助けになるとすると、暗闇は立ち止まって自省したりじっくり考えたりするた
めの助けになる。明るいばかりの世界は自分で思考することをやめて、明るさにつられて自分を見失う人を増やし
続けているのではないだろうか。自省の念にかられたら、シューベルトの歌曲を、訳詞を味わいながら聴いてみる
のも良いと思う。「白鳥の歌」のベストはやはり、ホッターとムーアの共演したものであろう。ホッターの歌唱は
深く、悲しみに満ちている。